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中里唯馬?栗野宏文らが審査、「FASHION FRONTIER PROGRAM 2025」グランプリが決定

ステージに並んだファイナリストの作品

Image by: FASHIONSNAP

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 ソーシャルレスポンシビリティ(社会的責任)とクリエイティビティ(創造性)を併せ持つ衣服のデザインを具現化できるファッションデザイナーを育成?支援するプログラム「ファッション?フロンティア?プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM、以下FFP)」の2025年度の最終審査と授賞式が、12月13日に東京?虎ノ門ヒルズの「TOKYO NODE HALL」で開催された。設立5周年の節目となった今回は、最終審査に残った8人のファイナリストの中から「ここのがっこう(coconogacco)」出身のデザイナー 林ひかりがグランプリを受賞。準グランプリには、滝直とエミリー?ミサキ?ホン(Emily Misaki HON)が輝いた。

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 会場では、ファイナリスト8人による作品の公開プレゼンテーションと最終審査、授賞式が行われたほか、同プログラム発起人の中里唯馬をはじめとした審査員たちによる、「ファッションの未来」をテーマとしたトークセッションが行われた。

ファイナリストと審査員の集合写真

FFP 2025ファイナリストと審査員

 FFPは、デザイナーの中里唯馬と一般社団法人「unisteps」が2021年に設立。プログラムは「アワード」「インキュベーション」「スカウティング」「マッチング」「ラボ」の5つの要素で構成されており、ファイナリストには、自身のアイデアを具現化するためのさまざまなジャンルのサポーターやアドバイザーからの学びの機会や、技術サポート、作品発表の機会が提供される。応募条件には、「独自のアイデアにソーシャルレスポンシビリティの視点を交え、ファッションのフロンティアを開拓するような志を持っているか」を設定し、年齢や職業、経歴などの制限は設けていない。

 プログラムの運営は環境省とも連携しているほか、セイコーエプソンやゴールドウイン、大丸松坂屋百貨店、YKKなどがパートナー企業として参加している。今年度は中里のほか、現代美術家の寒川裕人、ユナイテッドアローズ上級顧問の栗野宏文、国立環境研究所?生物多様性領域室長の五箇公一、Sozzani財団 クリエイティフ?テ?ィレクターのサラ?ソッザーニ?マイノ(Sara Sozzani Maino)、スカピノ?バレエ?ロッテルダム アーティスティックディレクター/オペラディレクターのナニーネ?リニンク?(Nadine Rininger)、慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章、ファッションジャーナリストの渡辺三津子が審査員を担当。多様なジャンルの第一線で活躍する審査員たちが、「これからのファッションのあり方」を多角的な視点から議論し評価した。なお、五箇は都合により欠席した。

 最終審査では、日本、オーストラリア、オーストリア、ポーランドから集まった8人のファイナリストによる5分間の作品プレゼンテーションを実施。ポーランドの国境を隔てて「戦争」が身近にある地域の出身であることから実感した”境界の不安定性”を、カラフルな廃棄レザーの断片を組み合わせて制作したトレンチコートで表現した作品や、繁殖力が強く駆除の対象とされる“侵略的外来植物”のイタドリを、テキスタイルや染料として活用することで「不要」から「価値」へと転換させたドレス、越前和紙の“破れても再び水に戻して漉き直すことで新しいものを生み出す”という、壊れることと続くことが同時に存在する伝統的なあり方から着想を得た、“ファストファッションよりも速く壊れるが、直すことで再び形を変えて着ることができる”和紙のドレスなど、さまざまな視点や角度から社会的責任と創造性の両立にアプローチした、独自性豊かな作品の数々が披露された。

グランプリは林ひかり 子ども服を解し“誰の身体にも属さない形”に再構築

 グランプリを受賞した林ひかりは、「Reframing(外枠)」と題した作品を制作。サイズや流行、着方、他者評価など、服が身体を基準に存在するのではなく、基準に身体を寄せていくことや、「消費」のスピードの速さへの違和感を出発点に、身体の成長によりすぐに役割を失う「子ども服」を独自の技法で解すことで、“誰の身体にも属さない形”のドレスへと再構築した。

林ひかり「Reframing」

林ひかり「Reframing」

 林は作品について、「速いスピードで消費されていく“Tシャツ”というものに対して、役割を終えた子ども服のTシャツに、制作期間中に亡くなった祖母が時間を掛けて手掛けていた織物の柄をプリントすることでさらに“愛情”を重ねた。それを解してドレスへと再構築し、作品撮影では細身ではなくふくよかな体型のモデルの方に着ていただくことで、違和感を消去せずにそのまま残すことを目指した」と説明。「FFPへの参加を通して、多角的な視点からファッションを学べたことや、セイコーエプソンさんとの協業で制作を行えたこと、何より同じ志を持つ意欲の高い仲間たちと国を超えて関わることができたことが、自分にとってとても贅沢で重要な経験だった。これからも型にはまらない自分なりの視点で、服やZINE、インテリアなど、何かしらの“人が纏う空間”となれるようなクリエイションや制作を行っていきたい」と今後の意気込みを語った。

グランプリを受賞した林ひかり

 審査員の渡辺は、「コンセプト、テクニック、エモーションの3つが、その人にしかできない形で融合することで素晴らしい作品になると思うが、今回の林さんの作品はまさにそれを実現しており、私たちはとても心を動かされた。5周年にふさわしい成果を出してくれた」と作品を高く評価した。

(左から)準グランプリの滝直、グランプリの林ひかり、準グランプリのエミリー?ミサキ?ホン

(左から)準グランプリの滝直、グランプリの林ひかり、準グランプリのエミリー?ミサキ?ホン

 準グランプリを受賞した滝直は、服を着る行為を一種の“遊び”と捉え、ジェンダーや体格の制約を受けることなく誰もが自由にアレンジして着られる、カラフルなミシン残糸を用いたニットパンツとパネル状のニット2枚からなる服「Wrap me up!」を制作。着物や相撲の帯、古代ギリシャの衣服といった巻き付けて結ぶことで身体に留める服飾文化を参照し、巻き付け方や結び方によってシルエットが変化し、着る人自身にスタイリングを委ねるサイズフリーの服に仕上げた。

滝直の作品

滝直「Wrap me up!」

 同じく準グランプリに輝いたオーストラリア出身のエミリー?ミサキ?ホンは、ファッションの使い捨てのサイクルが環境のみならず、職人技やアイデンティティ、文化的な物語を消し去っていることに着目。祖父の遺品を整理する中で抱いた深い喪失感を出発点に、祖父が着古した衣服の断片を織り直し、近隣で拾い集めたユーカリの落ち葉を用いて染め直すことで、喪失や記憶などの感情や文化的遺産を服として再構築した作品「Relics(遺品)」を発表した。

エミリー?ミサキ?ホン「Relics」

エミリー?ミサキ?ホン「Relics」

審査員たちが語った「ファッションの未来」

 授賞式後に行われたトークセッションでは、審査員の中里、寒川、栗野、宮田、渡辺、オンライン参加のリニングが登壇。「ファッションの未来」や「未来を担うクリエイターに期待すること」などをテーマに、それぞれの専門領域から、社会的責任とクリエイションの融合についての議論が展開された。

 プログラムの立ち上げから5年間、審査員として変遷を見守ってきた元「VOGUE JAPAN」編集長の渡辺は、クリエイターの意識の変化に言及。「発足当初の2021年は『ファッションは世界第2位の環境汚染産業である』というメッセージの衝撃が強く、初期の応募作品は素材や再利用技術によるサステナビリティの実現に焦点が当たりがちだった。しかし、次第により個人的なエモーションからものづくりを始め、それがどう社会と結びつくかという視点を持つ人が増えてきた。今年は、クリエイティビティと社会に向き合うスタンスがそれぞれの中で成熟し、私たちの感情を揺さぶるような形で現れてきたと感じる」と評価した。

渡辺三津子

 それを受けた中里は、作り手の意識変革が持つ可能性を強調。「製品の環境インパクトの80%は、ものづくりのプロセスの中で決まるという話もある。つまり、デザイナーの日々の意思決定の一つひとつを変えることができれば、アウトプットや結果、未来を変えられるのではないかという思いから、教育(エデュケーション)と評価(アワード)が融合したこの場が誕生した。この5年間でその思いは少しずつ社会に広まっている実感があり、環境問題だけではなく、動物福祉や人権など、ファイナリストたちが提起する問題も多様化し、それぞれのパーソナルな視点からのクリエイションが増えていることを実感している」と語った。

中里唯馬

 今年の審査における重要な論点について、宮田は「自分ごと化」というキーワードを挙げた。「今年のファイナリストの方々は、サステナビリティをどこか遠くから降ってきたお題としてではなく、自分のルーツやストーリーから編み上げて未来に繋げていた。この『自分ごと化』が、新しい時代においてすごく必要なことになっている」と指摘。従来のサステナビリティが「西洋から降りてきたSDGs的な文脈」に沿うことが重視されすぎていたことを踏まえ、「上から降りてきたものを解釈するのではなく、自身のルーツや文化、気候風土の中から編んでいくものが“新しいサステナビリティ”になるのではないか。既存のSDGsには『文化』の視点が欠けていることを考えると、FFPが提示するメッセージはその重要なカウンターパートにもなり得る」と話した。

宮田裕章

 「サステナビリティ」に関連して、アーティストの寒川は、クリエイターが自身のクリエイションを「続ける」ことの大切さについて言及。「主題やテーマに持続性を求めるのは良いことだが、まずは自分自身がそのテーマを5年、10年と続けることができるかどうかが最も大きな責任の一つ。今年のファイナリストたちは、テクニックだけでなく、その前段階にちゃんとアプローチしているという意味で質が高かった」と分析した。

寒川裕人

 また、ファッション以外の分野からの視点として、演出家?振付家のリニングは舞台芸術の世界における「創造性と責任」の関係性について言及。「舞台芸術の世界では、近年社会的責任を巡る議論は、『何を表現するか』から『どのように活動するか』へと移行している。誰が、どのような状況で、どんな権力構造のもとで創作に携わっているのか。責任とは、創造のプロセスそのものの倫理性に関わるものとなっている」と話した。

 また同氏は、「卓越性(Excellence)」の定義そのものを問い直す必要性についても指摘。「卓越性が忍耐や犠牲と同義とされた時代は終わり、これからは『明確なビジョンと協力者や観客、世界に対する責任感の融合』によって測られるべきだ」と語った。

 セッションの最後には、各審査員が未来のクリエイターたちに向けたメッセージを送った。栗野は「たった一言、『Freedom is making mistakes(自由とは間違いを犯すこと)』と伝えたい。間違いを犯さないようにしすぎることが、一番の間違い。ほとんどの発明は間違いから始まっている。間違いのない世界なんてありえないのだから、皆さん、いっぱい間違いを犯してください」と締め括った。

栗野宏文

発起人?中里唯馬が語る、FFP5周年の手応えと展望

 授賞式終了後、発起人である中里は個別取材に応じ、5周年の節目を迎えた本プログラムの原点と今後について語った。

 中里はまず、プログラム設立の経緯について「当時はコロナ禍の真っ只中。自身もものを生み出す立場として『このままでいいのか』という葛藤があった」と振り返る。「課題に対して答えを考える場や、何を評価すべきかという基準が定まっていないという危機感があった。それならば、クリエイターの意識を変えることが未来を変えるという信念のもと、学ぶ場と評価する場を一体化した場所を作ろうと思い立った」と、設立当時の思いを明かした。

 また、同プログラムの特徴である、美術、科学、医学など多岐にわたる審査員の構成について訊ねると「衣服は誰にとっても必要なもの。だからこそ、ファッション業界の中だけで未来を考えていては限界がある」と指摘。「トレンドや業界の流れの外側にある世界情勢や気候変動に向き合うには、異なる専門分野のエキスパートからの多角的な視点が不可欠。多様なジャンルの人たちと一緒に未来を考えていく場を作ろうという思いがあった」と、その意図を語った。

 この5年間の成果については、「コミュニティが形成されてきたことが最大の収穫」だと述べる。「今回の林さんのように、一般公開したプレゼンテーションを見た人が翌年に応募し、グランプリを受賞したり、世代を超えた受賞者同士のコラボレーションが実現したりといった現象が起きている。これは継続してきたことの結果だと思う」と手応えを口にした。

 さらに、FFPが提示する独自の評価軸についても強調。「若い才能が『ブランドを持ってコレクションを発表する』というステレオタイプなデザイナー像に引っ張られすぎているのではないかという懸念があった。既存の枠組みには収まらないが、衣服や身体への深い興味を持つ優秀な人材を積極的に評価し、掬い上げる場が必要だ」と語り、業界内でオルタナティブなアクションを取りづらい現状に対して、既存のファッションアワードとは異なる評価軸によって、未来のファッションにおいて重要な能力を持つ人を積極的に評価していくことの意義を示した。

 自身のクリエイションにおける「ソーシャルレスポンシビリティ」の捉え方について訊ねると、「それはクリエイションの1丁目1番地であり、出発点」と断言。「建築家が耐震性や耐火性を考慮するように、衣服においても倫理やルールといった制約は前提条件。制約を避けるのではなく、その中でいかにクリエイションを張り巡らせるか。まずはクリエイター自身が、今知っておくべき基準を把握することが重要だと思う」と話した。

 最後に今後の展望として、中里は活動領域の拡大と支援体制の強化について言及。「年々海外からのエントリーが増えているが、さらに広い地域へと拡張していきたい」とグローバルな展開に意欲を見せる一方で、クリエイターが直面する実務的な課題への支援も強化している。「才能や能力はあるが、社会とうまく繋がれない人もいる」ことから、FFPでは今年から新たに「アーティストマネジメント」をスタート。請求書や契約業務のサポートに加え、企業からの依頼を咀嚼してクリエイターに伝達?仲介するなど、創作以外のハードルを取り除くことで、クリエイターが最大限能力を活かして社会に還元できる形を作っていくことを目指すという。

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グランプリ:林ひかり「Reframing」

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準グランプリ:滝直「Wrap me up!」

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準グランプリ:エミリー?ミサキ?ホン(Emily Misaki HON)「Relics(遺品)」

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アリツィア?カマイ(Alicja KAMAJ)「Surrender(身を任せる)」

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梅宮青「MUSUHI」

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ゲラルト?ブラントシュテッター(Gerald BRANDST?TTER)「ReBloom / Itadori(再び咲く/ イタドリ)」

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森本秀樹「オシラサマ」

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堀川和紗「suku(すく)」

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富山聖「HAMURA-護りの衣-」(2024年度準グランプリ)

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村田充生「OSHISHI」(2024年度準グランプリ)

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