今年のお買い物を振り返る「2025年ベストバイ」。14人目は、スタイリストの伊藤信子さんです。気取らないのにおしゃれ。飾らないのに印象に残る。そんな独自のバランス感覚で魅せるスタイリングで、雑誌、映像、広告など幅広い作品で活躍されています。「もう、心から欲しいと思えるものしか買わないんです」と話す伊藤さんのお眼鏡に叶った選りすぐりの6点とは?
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目次
MASU「KNIGHT PLAID SHIRT」

FASHIONSNAP(以下、F):まずは、「エムエーエスユー(MASU)」のシャツをお持ちいただきました。
伊藤信子(以下、伊藤):展示会で一目惚れしてオーダーしたアイテムです。ゆるっとしたサイズ感で、シェイプが効いているところが気に入っています。パリッとした質感で仕立てもすごくしっかりしていて、古着のようなくたっとした感じにはならないのも好きなポイントです。ボタン部分までクシュっとなっているところも珍しいですよね。



胸元のボタンにもギャザー入り
F:エムエーエスユーはよく購入されますか?
伊藤:結構買っていますね。ポップコーン生地のジャケットやカーディガン、あとはグラフィックデザインのTシャツとか。自分らしいかというとそうではないかもしれないのですが、クローゼットに置いておきたいアイテムが多くて。何十年後かに見ても古くならないような、絶妙なデザインが心に刺さるんだと思います。このシャツもチェック柄でクラシックなものなので、長く着れそうです。
F:確かにいつの時代も1着あると便利そうですね。どうコーディネートされていますか?
伊藤:夏はTシャツにデニム、その上にさらっと羽織る感じで着ていました。これからの季節はこの上にニットを重ねて、襟や袖口を少し覗かせるのも可愛いと思います。毛足が長めのグレーのニットなんかと合わせたいですね。
Tシャツが大好きなので、白のTシャツとデニムに合わせることを基準に羽織りものとしてシャツを買いがちかもしれません。肌寒いときはさっと羽織れて、暑くなったら腰に巻いてアクセントにもなる。1年を通してバッグに入れておきたいマストハブアイテムなので、良いかもと思ったらつい購入してしまいます。
F:確かに伊藤さんといえばTシャツのイメージがあります。Tシャツを購入するときのこだわりはありますか?
伊藤:デザインはもちろんサイズ感や色味、ヴィンテージのものだと劣化具合などです。Tシャツへの審査基準は自分の中で年々とても厳しくなってしまっていて。本当に気に入ったものでないと買わないので、1年に1枚も買わないこともあります。ちなみに今年は買っていないような気がします。
Ans Dotsloevner?「PUFF SKIRT GRAY」

F:2点目は、「アンス?ドッツローヴナー(ans dotsloevner)」からミニスカート。ユニークなシルエットが印象的です。
伊藤:これもエムエーエスユー同様、持っておきたいと思い購入したアイテムです。ルックではレギンスを合わせていましたが、私にはちょっとできないので、スウェットパンツやスラックスなどの上から重ねて履いています。生地も分厚く暖かいですし、今の季節にぴったりです。アンスは、デザイナーの百瀬華乃さんを昔から知っていて、2021年にブランドを始めた頃から注目していました。カーディガンやパンツ、シューズなど、たくさん持っていますね。
F:お話を聞いていると、アイテムが持つクリエイティビティが購入の決め手になっているようです。
伊藤:そうですね。手持ちの服でスタンダードなものはだいぶ揃っているので、新しく買い足すアイテムはコーディネートのプラスアルファになるようなものを選ぶようにしています。
悩むものはもういらないと感じるようになってからは、ピンとくるアイテム自体が自然と限られるようになって。最近は「使えるかどうか」よりも、見たり着てみたりした瞬間に心が振れるかどうかを大切にしています。そのおかげか、気づけばそのブランドのそのシーズンでしか買えないようなユニークなデザインのものばかり手に取るようになっていました。


F:新進気鋭ブランドは普段からチェックされていますか?
伊藤:仕事柄、新たなブランドをすぐにキャッチできるように意識しています。Instagramで流れてきて知るのはもちろん、友達が着ていたりするのを見て「可愛い、何それ?」と知ることも多いです。可愛いと思ったら、若手だろうがベテランデザイナーだろうが、あまり気にしてないです。
F:ちなみに、最近気になっているブランドはありますか?
伊藤:「ジュリ ケーゲル(Julie Kegels)」です。もともと「メリル ロッゲ(Meryll Rogge)」が好きでよく着ているのですが、ジュリのデザイナーはメリル出身なんです。今年はグレーのパンツを買って、気に入ってよく履いています。ちなみに、今日着ているこのピンクのニットはメリルのデザイナーが手がけるニットブランド「ビービーウォレス(B.B. Wallace)」のものです。
F:メリル ロッゲといえば、今年「マル二(MARNI)」の新クリエイティブディレクターに就任しましたね。
伊藤:絶対に可愛いので、楽しみです。でもメリル ロッゲ好きとしては、個人ブランドが今後どのように展開されていくのか気になります。マルニでの表現と、メリルでの表現、そのどちらもファンとして追いかけていきたいです。今年はデザイナー交代が相次いだ一年でしたが、「ディオール(DIOR)」に行ったジョナサン?アンダーソン(Jonathan Anderson)しかり、別ブランドのクリエイティブディレクターを務めるデザイナーが自身のブランドでどんな表現を見せてくれるのか楽しみです。
Adrian Cashmere「AC Tote」

F:続いてニューヨーク発「エイドリアン カシミア(Adrian Cashmere)」のトートバッグです。
伊藤:これは11月にニューヨークへ遊びに行ったときに買ったものです。一緒に行った友人がおすすめしてくれたブランドで、連絡を取ったらアトリエに買いに来ていいよと言ってくれて。そこで色々と試着させてもらっている中で、このバッグを見つけました。
F:どういった点に惹かれましたか?
伊藤:外側がニットで、内側がキャンバス地になっているようなバッグはあまり見たことがなかったので、もう見た瞬間に可愛いと思って即購入を決めました。間口も広くて頑丈なので、仕事でもプライベートでも重宝しています。実は、アトリエに訪れたときにスタッフの方がこのバッグの2倍くらいの大きさのものを持っていて。そちらを買おうか迷ったのですが、バッグが大きいとその分色々入れてしまって、荷物が重くなりすぎてしまうので。肩こり軽減のために小さい方を購入しました(笑)。

F:海外にはよく行かれますか?
伊藤:割とよく行く方だと思います。最近は仕事で頻繁にヨーロッパに行っていたのですが、ニューヨークは10年以上ぶりかな、とても久しぶりに行きました。ふとニューヨークって今どんな感じなのかなと気になって。想像通り物価がかなり上がっていましたが、やはり活気がありますね。とても楽しかったです。
Sisi Joia「NOUE」

F:続いて、「シシ?ジョイア(Sisi Joia)」のネックレスとリングをお持ちいただきました。
伊藤:このブランドはさまざまなセレクトショップで取り扱われているのですが、お店ごとに展開しているカラーが違っていて、自然と色違いを集めていました。プレーンなTシャツに合わせるだけでスタイリングが決まるので、とても重宝しています。身につけていると「それ、どこのですか?」と聞かれることも多いですね。なかでもカラフルなネックレスは、なんだか「ストレンジャー?シングス(Stranger Things)」に出てくる電飾みたいで特に気に入っています。

F:アクセサリーはよく購入されますか?
伊藤:ネックレスとリングをよく買います。普段の服がグレーのパーカにデニムのような地味な組み合わせが多いので、アクセサリーは大ぶりでキャッチーなものを選ぶことが多いです。
最近よくチェックしているアクセサリーブランドは、「マーランド バッカス(Marland Backus)」や、ニューヨークで見つけて気になった「スーザン アレクサンドラ(Susan Alexandra)」。存在感のあるネックレスやリングが揃っていて、見ているだけでもワクワクして楽しいブランドです。シンプルなものを探しているときは日本ブランドに注目しがちで、「エネイ(ENEY)」や菅原美裕さんが手掛けるジュエリーブランド「ロロ(LORO)」を覗くことが多いですね。
F:アクセサリー以外で、スタイリングが少し物足りないと感じたときプラスワンするのにおすすめのアイテムはありますか?
伊藤:靴下やタイツで足元に色を足すのがおすすめです。実際に撮影現場には、毎回大量の靴下やタイツを持っていきます。全体のトーンから少し外した色や柄を取り入れるだけで印象を手軽に変えられるので、ぜひお気に入りの一足を見つけて試してみて欲しいです。
Lautashi Design × 祇園ない藤 下駄

F:次は鈴木えみがデザイナーを務める「ラウタシーデザイン(Lautashi DESIGN)」と、京都の老舗履物匠「祇園ない藤」のコラボレーション下駄です。最近、下駄を私服に合わせる方が増えてきているとよく耳にします。伊藤さんも普段からよく履かれますか?
伊藤:いえ、普段履き用の下駄は初めて買いました。これまで、下駄は必要に迫られたときに履くものという意識が強くて、普段からチェックすることはありませんでした。でも、展示会でこの下駄を試着してみたらあまりの履き心地の良さに驚いて。見た目の可愛さはもちろん、足にすっとフィットして、背筋が自然と伸びるような感覚があったんです。「これを履いて歩いたら健康になりそうだな」と思えるほどで(笑)。履いた瞬間にビビッときて、迷わず購入を決めました。
F:ユニークなデザインに中にラウタシーデザインらしいキュートさもありますね。
伊藤:そこも気に入ったポイントです。ファーがついていることで、良い意味で下駄とは気づかれにくいので、着物だけでなくデニムやスカートに合わせたりと幅広いスタイリングが組めますね。

F:普段、足元はどんな靴が定番ですか?
伊藤:デニムとTシャツが自分の初期装備スタイルとしてあるので、それに合うスニーカーやローファーを買うことが多いです。よく歩く自分の生活スタイル的に、ヒールよりフラットな靴が多いですね。
F:では買い物に行くときはスタイリングが想像しやすいデニム×Tシャツ率が高いですか?
伊藤:特に意識しているわけではないのですが、白Tとデニムで行った展示会では、なぜか色々オーダーしている気がします(笑)。頭の中でスタイリングが組みやすいから、気持ちも自然と買う方向に傾くんでしょうね。反対に初期装備からかけ離れた格好をしていると、財布の紐も固くなっているかもしれません。面白いですね。
F:スタイリストらしいお買い物の仕方ですね。後から「買わなくてもよかったかも」と後悔してしまうようなお買い物の失敗を減らすために、ほかにも意識していることはありますか?
伊藤:これは皆さんやっているかもしれませんが、自分の手持ちの服を把握しておくのはおすすめです。頭の中でスタイリングの答え合わせがすぐにできて、「これはあのデニムに合うな」とか、「これは今あるもので代用できそうだな」と判断しやすくなる。そうやってお財布を開く前に一度立ち止まるようにすると、買わなくてもよかったなと後悔するような買い物は、自然と減っていくと思います。
New Balance「1906 HOOK & LOOP」&「1906R」

F:最後は、娘さんとお揃いで購入されたという「ニューバランス(New Balance)」のスニーカーです。
伊藤:娘からピンクの靴が欲しいとオーダーを受けてスニーカーを買いに行ったのですが、公園で汚れるから黒がいいかなと思いこのデザインを選びました。おもちゃっぽくて可愛いなと眺めていたら、自分も真似したくなってしまい(笑)、結局お揃いで購入しました。娘のは19cmなのですが、マジックテープデザインが大人用にはなかったので羨ましいです。

娘用のスニーカー(19cm)
F:お揃いのアイテムを買うことは多いですか?
伊藤:あまりないです。娘は6歳ですが、もう洋服に対してこだわりがあるので、私が選んだ服は着てくれなくて。私からしたら「ちょっとダサいんじゃ?」と思うようなフリフリのスカートなんかを好んで履いています。反対に8歳の息子は、グレーのスウェットにネイビーのパンツといったように、結果的に私と同じような格好になってしまうことがありますね。
とはいえ、このスニーカーのように、娘の好きなものに私が寄せたり、感化されたりすることはあります。当たり前ですが、子どもは一番若い世代じゃないですか。その世代が好きなものには、きっとピュアに刺さる理由があると思うんです。なので娘は、私にとって信頼できる最前線のトレンドソースでもあります。ちなみに今子どもたちの間で一番流行っているのは、ネットフリックスのアニメ映画「KPOPガールズ! デーモン?ハンターズ」らしいです。

F:ニューバランスはよくチェックされますか?
伊藤:モデル名などにはまったく詳しくないのですが、履き心地がいいのでいくつか持っています。丈の長いパンツを裾に少し溜めて履くことが多いので、ニューバランスのようにソールに高さのあるスニーカーだと、全体のバランスがきれいにまとまるので助かっています。反対に、ペタンコなスニーカーを履くときは、丈が短めのパンツを合わせてスニーカーのデザインを活かすようにしています。
今年の買い物を振り返って
F:2025年のお買い物を振り返ってみていかがでしたか?
伊藤:合計50点程度と、スタイリストにしては少ない買い物数だったと思います。でも、点数こそ少ないですが、満足感のある買い物ができました。ここ数年、「本当に使えるかどうか」を基準に選りすぐりのみを買っているので、正直すべてのアイテムがベストバイです。
F:記憶に残っている購買体験はありますか?
伊藤:とあるロンドンのブランドから買ったTシャツです。モトーラ世理奈ちゃんが着ているのを見て可愛いなと思い公式オンラインストアで2枚注文したのですが、同じSサイズなのに大きさが全然違っていて。え?と思いながらも、可愛いからまあ良いかと受け取ったんです。後日3枚目を注文したら、今度はまったく別のアイテムが届いてしまって。問い合わせると「返品しなくていいよ、あげる」と言われたのですが、正直着ないデザインで(笑)。さらに「正しいものを送るね」と届いたTシャツも、また頼んだものとは違っていて(笑)。結果的に思っていたのとは違うTシャツだけが手元に残り、結局本当に欲しかった3枚目手に入らずでした。一見ネガティブな体験に聞こえるかもしれませんが、私はあまりそう感じていなくて。海外ブランドならではの大らかさというか、そのドタバタも含めて楽しかったですし、本来だったら自分では選ばなかったTシャツを着るきっかけにもなりました。そういう偶然性も含めて、買い物の面白さだなと思っています。
F:手にするまでに物語のあるアイテムは記憶にも長く残りますよね。最後に、スタイリスト歴21年目となる来年の抱負を教えてください。
伊藤:自分らしい仕事をしていきたいです。記憶に残る作品をつくれるといいなと思っています。今の時代、情報はどんどん流れていってしまいますが、パッと見て記憶に残って、10年後に見ても「あ、このスタイリング知ってる」って思ってもらえることが理想です。私が買い物をしたアイテムと一緒ですね。人の記憶に勝手に残るような撮影を、地道にしていきたいです。

??伊藤信子/スタイリスト
東京生まれ。2005年からスタイリストとしてキャリアを重ね、雑誌や広告、コマーシャル、カタログ、さらにはアーティストや俳優のスタイリングまで幅広い現場で活躍。プライベートでは、8歳男児と6歳女児を育てる母でもある。
Instagram:@ito_nobuko
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