今年のお買い物を振り返る「2025年ベストバイ」。11人目はスタイリストのTEPPEIさん。2000年代ファッションアイコンとして原宿のストリートカルチャーをけん引し、その後スタイリストとして活躍。ストイックかつ情熱的に服と向き合う姿勢はデザイナーやアーティストのみならず、ファッション業界人からも熱い信頼を受けています。自身の価値観が変わるような大きな出来事があったという2025年に、TEPPEIさんが買って良かったモノとは?
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FASHIONSNAP(以下、F):今年で4年連続のご出演です。
TEPPEI:お声がけいただきありがとうございます。毎回記事が掲載されると周囲の人から「読んだよ」と声をかけられるんですが、反響は年々ヒートアップしている実感がありますね。
F:TEPPEIさんのベストバイは、購入に至るまでのストーリーや心の動き、「なぜこのアイテムを良いと思ったのか」がしっかりと言語化されていますよね。
TEPPEI:モノの価値、消費活動の意味がシビアに問われている現代ですが、スタイリストである自分がモノを買うということには何かしらの意味があると考えています。それを紐解くことで読者の方の人生に少しでもプラスの影響を及ぼせたらいいな、という思いで発信しています。
F:去年のベストバイでは、「毎日1着は服を買っています」と話していましたが、今年も引き続きたくさん買ったんでしょうか?
TEPPEI:実は、今年はそのルーティンをやめました。「毎日服を買う」というのはパワーワードなので多くの人が面白がってくれたんですが、反響がありすぎてこれが自分のキャッチコピーみたいになっていることに違和感を覚えたんです。毎日買うのは“結果”であり“目的”ではなかったので、今年は少し抗ってみました。買うというアクションに対してのハードルを上げたイメージです。
F:自然体で、心から欲しいと思ったものだけを買うようにしたんですね。
TEPPEI:そうですね。あと一つ、今年のベストバイをご紹介するにあたって避けては通れない自分の中の一大トピックがあります。このことを公表するかどうか迷いましたが、率直に言うと、実は7月の上旬頃からすごく体調が悪くなったんです。年齢から来る身体、精神の変化に仕事中心の日々をアジャストできなかったことが原因だと思うんですが、突発的に重度のアレルギー性喘息を発症してしまいまして。咳で全く眠れない日々が1週間以上続き、その上、治療で使った薬の副作用で、咳症状の軟化と引き換えに、今度は喉を悪くしてしまい声がほとんど出なくなってしまいました。
F:そんなことがあったんですね。声が出ないのはどれくらい続いたんですか?
TEPPEI:1ヶ月半くらいですね。お仕事で会う方々にも本気で心配されるし、声が出ないと周りも気を遣って話しかけなくなる。その期間、消費活動だけでなく、生活や仕事といった、人間としてより本質的なことを考えざるを得なくなりました。声が出ないと現場を回すハードルが上がるので、スタイリストとしてはかなり大きなダメージです。徐々に回復はしましたが、9月になってもまだリハビリが必要と言われたときは、正直「この仕事、続けられるのかな」とまで落ち込みました。10月にはパリファッションウィークも控えていて、精神的にもかなり追い詰められましたね。
F:まさかこの1年の間にそんなことがあったとは......。パリには間に合ったんですか?
TEPPEI:とにかく、やれることは全部やろうと。ボイストレーニングのようなリハビリを、仕事の合間や移動中、寝る直前まで、あらゆる時間を使って続けたら、奇跡的にパリに出国する前日に声が出るようになったんです。本当にギリギリのタイミングで、お医者さんも回復スピードに驚いていたくらいです。
F:今はもうお身体は大丈夫なんですか?
TEPPEI:関係者の皆さんにはご心配をおかけしましたが、今では全く問題ありません。完全復活です。ただ、この一連の経験は、自分やファッションについて深く考えるきっかけになりました。ボロボロの状態でも仕事に行くのは楽しかったから、よほど自分はこの仕事とファッションが好きなんだなと再認識しましたね。
ヴィンテージ ジャケットコート

F:そんな激動の1年の中でのTEPPEIさんのベストバイ。1点目からお願いします。
TEPPEI:1点目はヴィンテージのブラックジャケットです。これは中目黒の「ジャンティーク(JANTIQUES)」で買いました。これを着たときの、客観的かつ主観的な印象が、ものすごく程よく良かったんです。
F:程よい、とは?
TEPPEI:例えば、以前ベストバイで紹介した「ディオール オム(DIOR HOMME)」のジャケットは、仕立ての良さやエディ?スリマン(Hedi Slimane)がデザインしたという背景も含めて、自分の美意識や個性を顕示するような興奮がありました。一方このジャケットは1940?50年代のアイテムで、一見なんの変哲もない、製作者もアノニマスなヴィンテージ。でも、肩の傾斜角や張り、年代特有の生地の奥行きと厚みが、不思議と自分に合っている感じがしたんです。サイズがということではなく、“心”がフィットした、と言うのが適切でしょうか。




TEPPEI:体調不良がありギリギリの精神状態で迎えたパリでの仕事で、自分を包んでくれるものは何かと考えたときに、直感的に「これだな」と感じたのもこの服でした。タイムレスで、ボーダーレス。自分を偽ることなく、気負いすらも自然な形で表現してくれました。週に3回くらいは着ていて、まさに相棒のような一着です。


F:着用している姿をみると、名もないブランドながらTEPPEIさんが相棒のように着ていた理由が分かります。とてもお似合いです。
TEPPEI:他者がどうとか、自分をどう見せるかではなく、ありのままの自分にそっと寄り添ってくれる心地よさがあるんですよね。2万円ほどで購入しましたが、価格以上の価値を感じています。
F:この佇まいで2万円は破格ですね。
TEPPEI:ジャンティークは、元々老舗古着屋「サンタモニカ(Santa Monica)」にいた内田さん(内田斉氏)という方が店主を務めているお店ですが、近年のヴィンテージブームでよくある「何年代のこういったディーテールのアイテムだから高い」みたいな値段の付け方はしていなくて。宝探しをするような、古着本来の楽しさを再認識させてくれます。フラッと立ち寄ると思いがけない出会いがあったりして楽しいですよ。
HERM?S「バーキン」35サイズ

TEPPEI:1点目でアノニマスで心に静かに寄り添ってくれるジャケットを紹介したばかりですが、2点目はこれです。
F:アノニマスの対極にあるようなアイテムが来ました(笑)。超大物ですね。
TEPPEI:言わずと知れた「エルメス(HERM?S)」の名作 バーキンのヴィンテージです。僕は時計や車、家などそれぞれのカテゴリーで「いつか持ちたいもの」がありますが、カバンではこれだったんです。以前偶然実物を目にしてから、いつか手に入れたいと思っていました。黒の「トゴ」という雄仔牛由来のレザーを用いたモデルで、1996年製の35サイズ。金具はゴールドのタイプです。

F:とはいえ、バーキンは「欲しい」と言って手に入れられるモデルではありませんよね。去年アメリカで顧客が「バーキンの購入権が得られない」としてエルメスを相手取り訴訟を起こしたことは記憶に新しいです。
TEPPEI:僕はエルメス直営店の顧客ではないですし、かと言って縁もゆかりもない二次流通店舗やフリマアプリで購入するのも違う。自分の流儀を無視すればプレミア価格を出してすぐに手に入れられたのかもしれませんが、これまでのベストバイでもお話ししてきたように、僕は物を買うとき「どこで、誰からどんな気持ちで買うか」というストーリー性を大事にしています。「物を買う」というのは「思い出を買う」という側面もあり、買ったものを使うというのはそのときの記憶を思い出すことでもあったりする。せっかくバーキンを持つのに、それに紐づく思い出が味気ないものじゃ寂しいじゃないですか。
そこで、これまでのベストバイでも紹介した中央林間のお店*の店主さんに「この条件のバーキンが入ってきたら教えてください」と3年間アプローチし続けました。このお店とは付き合いも長いですし、トレーサビリティの面を含め本当に信頼しているので、このお店で購入したいと思ったんです。
* デザイナーズブランドやラグジュアリーブランドのアーカイヴを取り扱う、知る人ぞ知るアポイント制ブティック。ファッション的に価値のあるものを高く査定するというスタイルを貫いており、高感度オーナーはその店目掛けてピンポイントで売りに出すケースも多いので、独自性のある品揃えを特徴としている。

F:3年も。長い戦いでしたね。
TEPPEI:「20年お店をやっているけど一度も入ったことがない」と言われていたんですが、今年体調を崩した時期に「入荷しましたよ」と連絡があったんです。すぐに買うこともできましたがそのときの自分は精神的にもまいっていたので、「これをモチベーションの一つとしてパリの仕事を無事に乗り切ったら、自分へのご褒美として買おう」と取り置きをお願いしました。そういう意味でも、喉が回復して無事に仕事を完遂できて本当に良かったですね。
F:コンディションもとても良いですよね。製造から30年近く経っているとは思えません。
TEPPEI:店主さんによると、このバーキンは元々由緒ある会社の社長一族の中で大切に受け継がれてきたものだそうです。コンディションをみると、このバッグがいかに大切にされてきたかが分かります。所持できる幸せを噛み締めながら、愛していきたいですね。


F:バーキンといえば、ジェーン?バーキン(Jane Birkin)氏本人が所有していたオリジナルプロトタイプが約14.7億円(手数料込み?為替換算ベース)で落札されたというニュースがありました。
TEPPEI:それだけの普遍的価値があるものだという認識はありますし、持ち方によっては自分を誇示しているように見えるなど、諸刃の剣になりうるとも感じています。欲や煩悩を含め、持つ人の良い面も悪い面もそのまま映し出してしまう「御伽話の鏡」みたいな作品だなと。僕がこのカバンを持つことで、嫌味っぽく伝わらないか。これをファッションアイテムとして、“まろやかに”捉えてもらえるような自分でいたい。特に「男性がバーキンを持つ」ということに対するハードルを、軽々飛び越えていける人間になることが今後の目標です。
F:バーキンのようなネームバリューのあるバッグは「持つこと」が目標になりがちですが、TEPPEIさんの場合はそうではないんですね。
TEPPEI:スタイリングで生計を立てている人間として、バーキンをどうやってデイリーな装いに溶け込ませていくかという部分は意識しています。最近は、1点目で紹介したブラックジャケットと合わせることが多いですね。ただバーキンを買うにあたり、自分のコーディネートに馴染んでくれるだろうというある程度の信頼はあったので、あとはしっかり使い込んで名実ともに「自分のもの」にしていくだけかなと思っています。
F:今回は「ザ?ラグジュアリー」とも言えるエルメスのバーキン。去年は1950年代の民族衣装をベストバイに選んでいましたが、セレクトするアイテムの幅が広いですね。
TEPPEI:自分で自分の可能性を狭めないように意識してはいますね。特に今回の購買は、自分のコーディネートの幅を広げてくれました。例えば、僕はフーディーやデニムジャケットもよく着ますが、それらとヴィンテージのバーキンを合わせると、お互いがお互いを引き立て合って“まろやかに”調和してくれるんです。
UNDERCOVER 25aw MA-1

F:続いては「アンダーカバー(UNDERCOVER)」のMA-1。ここまではシックなアイテムが続きましたが一転可愛らしいアイテムですね。
TEPPEI:2025年秋冬コレクション「but beautiful 4…」で登場したMA-1です。「but beautiful」は2004年秋冬シーズンに発表された、ブランドを代表するコレクションで、僕が学生だった頃にリアルタイムで見て、衝撃を受けたんです。でも、当時は人気すぎて買えなかった。特にこのアイテムのオリジナルであるMA-1は、いつか手に入れたいとずっと思っていたアイテムでした。
F:それが今回、復刻されたわけですね。
TEPPEI:ブランド35周年のアニバーサリーと銘打った3月のパリでのショーを前にして、ブランドの方から「詳しくは話せないですが、次のショーはTEPPEIさんにぜひ見ていただきたいと思っています」と言われて。移動時間を考えると、自分がスタイリングを担当している「アンリアレイジ(ANREALAGE)」のショーが終わってすぐに向かわないと間に合わないスケジュールだったんですが、「そこまで言うなら何かあるな」と思い、終了後の挨拶もそこそこに、ジャーナリストのようなスピードで会場に直行したんです。ショーが始まってファーストルックが現れた瞬間に分かりました。「あ、これ『but beautiful』のオマージュだ!」って。あの頃のワクワクが一気に蘇ってきて、展示会でオーダーさせてもらいました。カーキとブラックの2色展開で、甲乙つけ難かったんですが僕はブラック派。ピンズがたくさんつけてありますが、全部別売りなんです。僕はジョニオさん(アンダーカバーデザイナー 高橋盾氏)のクリエイションを本当に尊敬しているので、やっぱりルックを通してジョニオさんが伝えたかったものをしっかりと再現したくて。写真と見比べながら一つ一つセレクトしました。でもほんの少しだけ自分の色もつけたくて、ルックにはないピンクのピンズを入れてみたり。1個あたり1?3万円くらいなので全部合わせると、ピンズだけで20万円くらいしています(笑)。




F:当時のオリジナルではなく復刻された新作を迎えることにした理由は?
TEPPEI:自分がいつか買おうと追い求めていたものがこのタイミングで復刻されて、更にショーにも立ち会うことができた。新作ではありますが、運命的なものを感じました。デザインもオリジナルの魅力をしっかり踏襲していますし、「これなら末長く愛せるな」と思い、このアイテムをワードローブに迎えました。


F:TEPPEIさんといえばの短丈。似合わないわけがないですね。
TEPPEI:これは「ぬいぐるみがMA-1になったら」みたいな発想からデザインしていて、ジップを閉めたときのフロントラインをはじめ、色々なところが湾曲しているんですよ。それを現代的にアップデートして、遊び心と着やすさを兼ね備えた一着に仕上げているのが凄い。ファンタジー的なデザインを追求していくとデイリーで着ることからは乖離していきがちだと思いますが、アンダーカバーは素材使いなどを駆使して奇跡的なバランスでそれらを両立させているんです。
TSTS 25aw ウールブルゾン

F:4点目も引き続き、TEPPEIさんの代名詞である短丈のブルゾンですね。
TEPPEI:「ティーエスティーエス(TSTS)」2025年秋冬コレクションのアイテム。デザイナーの佐々木拓也さんは、アントワープ王立芸術アカデミーで「アントワープ?シックス」のデザイナー ウォルター?ヴァン?ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)から直接服作りを学んだ人物です。クリエイションに以前から興味があったので展示会に行かせていただいたんですが、期待通り本当に良くて。
F:ティーエスティーエスの服には、時代を捉えた可愛らしさを感じます。
TEPPEI:おっしゃる通り。ただ一方で、時代の流れを揶揄する一面も持ち合わせていますよね。ポップでチャーミングなんだけど、トレンドに迎合するのではなく少し斜に構えて、物事を俯瞰的に捉えることでブランドらしさを作っているなと感じます。このバランス感覚がすごく好きなんです。
F:その姿勢はルックにも表れていますよね。




TEPPEI:でもこのブランドの魅力はこれだけじゃないんです。誰しも経験があるかもしれませんが、ポップな服って奇抜なアイデアや存在感が優先され、“服”としてのクオリティは二の次になりがちじゃないですか。それらを否定する意図は全くないんですが、ティーエスティーエスの服はそうではない。素材選び、パターンメイキング、縫製技術など全てが卓越しているんです。デザイナーの佐々木さんとパタンナーの井指さん(井指友里恵)が二人三脚で、持てる力を出し尽くして服を作っているんだなというのが伝わってきて心を打たれて。だからこそ「ポップという言葉で片付けられてくれるなよ」と思ったし、応援したいなと感じました。2026年秋冬シーズンからはスタイリストとして携わらせてもらいます。
F:ティーエスティーエスのスタイリングをやろうと思った決め手は?
TEPPEI:展示会で話をしていたら佐々木さんが一緒にやりたいと言ってくれたんです。僕は今まで「予算がいくら以上でないと受けない」といったスタンスではなく、やりたいと感じた相手とご一緒するようにしてきたんですが、やはりそれなりにキャリアを積んでくると相手に遠慮されてしまう。客観的に考えてそれは仕方ないことだと思うんですが、だからこそフラットに「一緒にやりたい」とシンプルな気持ちでアプローチしてくれたことが嬉しかったですね。
F:TEPPEIさんが加わって、ブランドとしてどんな新境地を見せてくれるのか楽しみです。このブルゾンの気に入っているポイントは?
TEPPEI:どのディテールが、どのデザインが、ということではないんですよ。素材は趣きのあるウールを使っているけどどこにもない素材というわけではないし、背面のプラスチックバックルとベルトの意匠も、特徴的ではあるけど革新的というわけではない。でも、シルエットや細部の配色、デザインを絶妙なバランス感で組み合わせて、唯一無二のムードを完成させているところが凄いなと。原材料の特別性ではなく、調理方法によってオリジナリティを生み出しているところに料理人のような矜持を感じますね。


F:どんな食材を、どんなバランスで調理するかが服作りにおいても肝になるということですね。
TEPPEI:それを服を通して再確認させてもらいました。ティーエスティーエスはオーバーフィットが得意な印象がありますが、彼らは本当にこれが上手い。行き過ぎないでほしいポイントをしっかり押さえた上で、絶妙なフィット感を提供してくれて。抽象的な表現にはなりますが、紛れもなく日本人が手掛けたカジュアルアイテムでありながら、往年のヨーロッパブランドのような特別なムードをしっかりまとっているんです。日本にその香りを表現できるデザイナーは数少ないと思うので、今後のクリエイションにも期待したいですね。
Levi’s? カスタムデニムジャケット

F:次は「リーバイス(Levi’s?)」のデニムジャケットですね。これはカスタム品ですか?
TEPPEI:そうです。セルフリメイクではなく、以前のオーナーさんがカスタムしたものを僕が買いました。1952年に登場したリーバイスのデニムジャケット「507XX」、通称“セカンド”がベースになっています。
F:正直、TEPPEIさんがヴィンテージデニムを着ているイメージはありませんでした。
TEPPEI:実際デニムを中心とするヴィンテージに関しては入り込めていなかった部分がありました。というのも、ことデニムにおけるヴィンテージ界隈って文化が独立して発達しているイメージがありまして。すごく奥が深いんだろうなとは思いつつ、自分がそこまでの熱量でアイテムに向き合えるかと考えたとき、自信を持って即答できなかったというのが正直なところだったんです。
F:そんなTEPPEIさんが今回あえてリーバイスの“セカンド”に手を出したのは何故なのか、気になります。
TEPPEI:きっかけは去年のベストバイでも紹介した、大阪の名店「フェザーズゴッファ」などを展開する西原さん(西原正博氏)がインスタグラムのストーリーズに「ヤベー!」という言葉とともにこのアイテムの写真を載せたことでした。フロントのポケットがストンと落ちて赤タグだけ残っている仕様が気になって問い合わせたら、「近々お店に入れようと思っているセカンドです。いわゆるヴィンテージデニムの中では“キワモノ”なので、TEPPEIさんみたいなファッションを楽しんでいる人に着てほしいです」と言われて。西原さんが手掛けるブティックの1つ「ブラックボックス(BLACX BOX)」内のショップインショップ「safari」に入荷するというので見に行きました。


F:“キワモノ”というのは?
TEPPEI:このアイテムはポケットを移動させたほか、袖口を片方だけカットしたり、バックに文字を入れたりと様々なカスタムが施されているんですが、これはヴィンテージの世界では御法度というか、「価値が下がる」ことに繋がってしまうそうなんです。王道ヴィンテージマニアには“状態が悪いアイテム”と判断されてしまうので、取引価格が下がってしまうんだとか。その証拠に、現在セカンドの相場はサイズが小さいもので30万円からと非常に高額ですが、このアイテムの価格は相場の半額程度でした。
F:オリジナルに手を加えているがゆえに、安く売られていた訳ですね。
TEPPEI:価値あるクラシックカーに落書きしているようなものなんですかね。こんなに素敵なデザインなのに。でもそうなると、逆に「自分が手に入れて愛を注いであげなきゃ」という気持ちが強くなってきて、試着させてもらったんです。そしたらなんとシンデレラフィットで。縁を感じて即購入を決めました。


F:ファッションとヴィンテージ、似ているようで異なる世界ですが、片方では価値がなくとももう片方では評価されることがあるんですね。
TEPPEI:何というか、異世界から転生してきたような感覚でした。僕がファッション畑の人間であるように大抵の人はどちらか片方に身を置いているような気がしているんですが、僕が日頃からお世話になっている方に2つの世界を行き来している方がいて。「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」の尾花さん(尾花大輔氏)なんですが、仕事でお会いしたときにこのジャケットを着ていったら開口一番「何それ?どこで買った?見せてもらってもいい?」と矢継ぎ早に聞かれました。“2つの世界”を行き来している尾花さんにとってもかなり興味深いアイテムだったようです。自分でもかなり気に入って、春先はこればかり着ていましたね。



Vivienne Westwood アーマームートンジャケット

TEPPEI:次は「ヴィヴィアン?ウエストウッド(Vivienne Westwood)」のアーマージャケットです。1989年秋冬シーズンの「タイムマシーン」と銘打ったコレクションのアイテムです。
発表されたのはファッションの熱量が日本国内でも爆発的に高まる直前のタイミング。1990年代中盤には、ヴィヴィアン?ウエストウッドと言えばファッションフリークの憧れの頂点と言っても過言ではないほどの人気を集めていました。当時中学生だった僕も憧れていた一人で、特にこのアーマージャケットのムートンタイプは、ルックを見たときからいつか欲しいと思っていたアイテムでした。
F:ウィメンズアイテムですが、合わせはメンズなんですね。

TEPPEI:そうなんです。サイズはウィメンズだからコンパクトだけど、自分の体形だったら着られるだろうなと。「ヴィヴィアン?ウエストウッド マン(Vivienne Westwood MAN)」から出ていた“アーマージャケット風”のアイテムはいくつか持っていますが、オリジナルは未所持で。ようやく見つけられて本当に嬉しかったです。
F:どこで購入したんですか?
TEPPEI:「アンサムチル(anthem_chill)」という祐天寺のヴィンテージショップです。トレンドや大衆に媚びない買い付けを貫いていて全幅の信頼を置いているお店で、ある時店舗に伺ったらこのアーマージャケットが置いてありました。



F:すごく複雑なデザインですね。
TEPPEI:その名の通り、西洋の騎士が身にまとっていた鎧からインスピレーションを得て作られたアイテムですね。生地がひと繋ぎになっている一般的なアウターとは異なり、それぞれの独立したパーツが一点もしくは複数点で留まっているデザインなので、着て歩くとパカパカします。僕はデイリーに使いやすいように自分で縫って補強しました。
F:着るのが難しそうです。
TEPPEI:袖の下も開いているのでたまに間違えますね(笑)。でも、着たときにトップスがチラッと見えるのでコーディネートを考えていてすごく楽しいです。

F:どんなアイテムと組み合わせることが多いですか?
TEPPEI:大きめで存在感のあるトラウザーに、襟付きのトップスもしくはがっしりとしたニットを合わせることが多いですね。自身のユニフォームでもあるベレー帽を被ると、ブリティッシュなムードに着地してしっくりくるんです。
F:パンチの効いたアイテムではありますが、TEPPEIさんが着用すると馴染んで見えるから不思議です。
TEPPEI:体形や雰囲気とマッチしているのもあるかもしれませんが、それ以上にヴィヴィアン?ウエストウッドは昔からずっと好きで、ブランドのバックカルチャーみたいなものもしっかり理解しています。そういう部分が着用時の“まろやかさ”に繋がっていたら良いですね。


F:“まろやか”という言葉が今年のキーワードですね。
TEPPEI:ファッションにおいて、モノが持つイメージをそのまま身にまとうというのは“否”ではないですが、アイテムパワーに頼りすぎたスタイリングが他人、もしくは自分に与えるイメージは決してプラスなことばかりではないと思っていて。単体で強い力を持つアイテムを組み合わせて良い意味で中和し、相乗効果を引き出せば、モノの魅力はそれ自体の何倍にも膨れ上がる。「誰が持っても同じ」なんてモノは基本的にないんです。だからこそ、ファッションは面白いですよね。
anrealage homme スパイキーブーツ

TEPPEI:ラストは「アンリアレイジ オム(anrealage homme)」のレザーブーツ。2025年春夏コレクションのアイテムで、スニーカーカスタムアトリエ「リクチュール(RECOUTURE)」と協業して製作したモデルです。10年近く前、スニーカーのソールを変えたりしてシューズをカスタムする文化が盛んになったのは覚えていますか??
F:コンバースのソールを厚底にしてみたりとかですね。
TEPPEI:そうです。そのブームのパイオニアと言っても過言ではないのがリクチュールのデザイナー 廣瀬さん(廣瀬瞬氏)。廣瀬さんはカスタムだけでなく靴作りもやっているので、アンリアレイジ オムのファーストシーズンで製作を依頼したところ想像以上に良いものができて*。セカンドシーズンである2025年春夏で再度お願いしたのがこちらのシューズです。
*?アンリアレイジ オムのデザイナーは森永邦彦氏だが、TEPPEI氏もスタイリストの立場から物作りに関わっている。
F:トゲトゲがついていてかなりユニークなデザインですね。
TEPPEI:3月のパリファッションウィークに履いていったら、客室乗務員さんや現地のファッション関係者、カフェの店員さん、信号待ちしているマダムなど、多くの人に話しかけられました。すごく反応が良かったですね。
ただ、1つ問題があって。商品化されたときは靴の内側(親指側の表面)を含め底面を除く全面にトゲがついていました。だから、歩くと内側のトゲ同士が当たって違和感があるんですよ。それすらもカッコいいと思って製作したんですが、自分が着用するとなると性格的に履く頻度が少なくなりそうだなと。森永さんに許可を得た上で廣瀬さんのもとに持ち込みました。


F:それで内側のトゲをカットしたんですね。
TEPPEI:はい。元々トゲがあった部分はドット型の跡が残ってしまったんですが、可愛いのでむしろ気に入っています。ついでにソールもやや薄型でシャープな印象のものに変更したりと、大掛かりな手術になりました。修理費はそこそこかかりましたが、その分以前より更にアイテムに対する愛着が増しました。コーディネートの主役やアクセントとして、末長く大事にしていきたいです。


今年を振り返って
F:今年のTEPPEIさんのベストバイを振り返ると、ヴィンテージから最新のコレクションまで、ラグジュアリーブランドから気鋭のドメスティックブランドまで、ラインナップは多岐にわたります。でも、その全てに「一生愛せるか」という共通の問いかけがあるように感じました。
TEPPEI:おっしゃる通りです。一般的には、シンプルなものこそタイムレスで長く愛せる、という風潮がありますよね。そしてそれらに比べると、デザイン性の高いものは短期で消費し飽きてしまいがちであると。でも、今の僕は、エルメスのバーキンも、トゲトゲの靴も、カスタムされたGジャンも、全て同等に愛おしい存在で、ずっと着用していけると本気で思っているんです。もちろん僕も最初からこのような価値観を持っていた訳ではなくて、自分の“好き”を一つ一つ積み上げてきたらこの境地に行きつきました。「他人ではなく、自分がどう思うか」を信じて、自分の選択に誇りを持って表現していくことが大事なんだと。

F:体調不良を経験されたからこそ、自分のモノに対する考え方の解像度がより高まったのかもしれませんね。
TEPPEI:間違いないです。今までも毎年「今年はどうだった、来年はどうしよう」という自問自答はしていましたが、病気というある種自分の生存に関わる経験をしたことで、1段階も2段階も深いところまで考えるようになりましたね。そういう意味では、病気で大変な思いをしましたが、新しい価値観に気づけたという意味では悪いことばかりではないのかな。今回で4回目の出演ですが、やはり今年の自分を振り返ることができる良い企画ですね。
F:来年はどんな一年にしたいですか?
TEPPEI:まず健康で過ごせることが一番です。今年実感しました。未来のことはまだ分からないけど、年末に振り返ったときに今年の自分から1つでも2つでもアップグレードできていたら良いですよね。皆様も良いお年をお迎えください。
??TEPPEI
1983年生まれ、滋賀県出身。ファッションディレクター/スタイリスト。2000年代初頭のスナップブームの中心的人物で、その個性的なスタイルは国内外で熱狂的な人気を集める。その後スタイリストとして本格的な活動を開始。独自のファッション哲学と思考でアーティストやブランドから大きな支持を獲得している。現在はスタイリングのほか、ブランドイメージや広告ヴィジュアル、そして商品開発レベルから撮影までに至るまでの総合的なパッケージディレクションを手掛けている。
instagram:@stylist_teppei
最終更新日:
■スタイリスト TEPPEIのベストバイ
■2025年ベストバイ
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