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ベアフットランニング(Barefoot Running)というランニングスタイルをご存知でしょうか。bareとは裸足という意味で、ベアフットランニングとは裸足、あるいはソールが極めて薄いシューズを着用して走るスタイルを指します。2000年後半に、一冊の書籍の出版がきっかけとなり大きなブームとなりましたが、数年で沈静化し人気は落ち着いていました。
しかし、2024年に「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」と「ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」が、相次いで「ニューハ?ランス(New Balance)」のベアフットランニングシューズを基にしたコラボレーションアイテムを発売。また、近年のファッションシーンで薄底スニーカーが人気を集めていることもあり、ベアフットランニングシューズが再び脚光を浴びつつあります。

「ジュンヤ ワタナベ マン」と「ニューハ?ランス」のコラボレーションシューズ
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この記事では、ベアフットランニングの歴史と基礎知識を紹介。そのほか、専門家がオススメする人気モデルもピックアップしました。
目次
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新たにトレンドの兆し、ベアフットランニングとは?
まず、ベアフットランニングについて簡単に紹介します。ベアフットランニングの最大の特徴は裸足、あるいは極端に薄いソールのシューズを用いることで、着地が踵ではなくフォアフット(前足部)あるいはミドルフット(足裏全体)になることです。それにより、以下の効果が期待できます。
- 接地衝撃を自然に避けるフォームになり、膝や腰への負担軽減
- ふくらはぎや足底筋がよく働き、足首周りの筋力、バランス能力の向上
- 着地音や路面状況を把握できることで、走る楽しさの増進
また、靴底の厚みに頼らないため、歩幅が小さくなりピッチが上がり、エネルギー効率が向上する人もいるそうです。
一方で、デメリットも存在します。まず、シューズの防護がない(少ない)ため、ガラス片や小石、金属片などによる切り傷、挫傷、刺傷の危険性が高まります。舗装路やトレイルでは特に注意が必要です。また、フォア?ミッドフット接地へ急に変わると、アキレス腱周辺やふくらはぎに強い筋肉痛が起こる場合があるほか、前足部に荷重が集中することで疲労骨折となる事例も報告されています。導入する際は、芝生やゴムトラックなどの柔らかい路面で数百メートル程度の軽いジョギングから始め、最初は週1回?合計10分程度を目安に、徐々に距離と頻度を増やすと安全だとされています。
一冊の書籍が巻き起こした大ブーム
ベアフットランニングシューズの先駆けとなったブランドが、ヴィブラムソールで知られるヴィブラム社の「ヴィブラム ファイブフィンガーズ(Vibram FiveFingers)」です。イタリア人デザイナー、ロベルト?フリリ(Robert Fliri)が「裸足のように自由に動き、岩や枝から足を守るプロテクションが欲しい」という思いから、ひとつひとつの指が独立した足袋状のラバーシューズを考案したのが、1999年のこと。そのアイデアをヴィブラム社が採用し、2005年に商品化したのがファイブフィンガーズです。

ヴィブラムファイブフィンガーズ
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発売当初のファイブフィンガーズは、滑りやすい甲板でヨットレーサーの足を支えるデッキシューズとして展開されていましたが、2009年に出版された書籍「ボーン?トゥ?ラン(BORN TO RUN)」(邦訳は2010年発売)が、その運命を大きく変えました。ジャーナリストである著者のクリストファー?マクドゥーガル(Christopher McDougall)は、「なぜ人は走ると故障するのか」という疑問を抱き、メキシコ奥地の断崖に住む「走る民族」タラウマラ族を取材します。タラウマラ族は、ワラーチと呼ばれるソールの薄いサンダルで何百kmも走り、「走ることを楽しむ」独特の文化を持っていました。そこから着想を得て著者は、世界的超長距離ランナーや科学者などの話を聞きながら、現代ランニングの常識であるクッション性の高いシューズやヒールストライク走法などを再考し、足本来の機能を取り戻す走法としてベアフットランニングを紹介したのです。

BORN TO RUN 走るために生まれた ―ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族”
著: クリストファー? マクドゥーガル
翻訳: 近藤 隆文
メーカー: NHK出版
発売日: 2012/07/31
価格: ?1,676(2025/07/28現在)
同書は世界的ベストセラーになり、ベアフットランニングブームが到来。書籍内で紹介されたファイブフィンガーズをはじめとするベアフットランニングシューズが日本のスポーツ用品店でも取り扱われるようになり、2010年頃からは「ナイキ(NIKE)」やニューバランス、「アディダス(adidas)」などの大手スポーツブランドも、ベアフットランニングを意識したシューズを発売するようになりました。
ブームの沈静化と厚底の台頭
しかし、ヴィブラム社の「傷害が減る」「従来のシューズよりも自然な走りになる」と謳った広告に対し、2012年にアメリカで科学的根拠不足を指摘する集団訴訟が起こります。この訴訟は2014年に和解に至りましたが、これによりベアフットランニングブームはクールダウンし、以降はベアフットランニングによる効果は個人差があり、移行は段階的に行うべきだということが共通認識となりました。
その後、ランニングシューズの主流となったのが、厚底シューズです。2009年にフランスで創業した「ホカ オネオネ(HOKA ONE ONE)」(2021年にブランド名を「ホカ(HOKA)」に統一)は、一般的なシューズの1.5?2倍のソール厚のシューズを打ち出し、ヨーロッパのトレイルランニングシーンで話題となります。2013年にはアメリカを拠点とするデッカーズ社がブランドを買収し、ロード向けアイテムを拡充。その後、2017年に上陸した日本市場でも大ヒットし、厚底ランニングシューズのリーディングブランドとして確固たる地位を確立しました。
また、ナイキのカーボンプレートを内蔵した厚底シューズ ヴェイパーフライ着用者がオリンピックのマラソンで世界新記録を更新したこと、ヴェイパーフライが箱根駅伝で驚異的な着用率を記録したことが大きな話題となり、ランニングシューズのトレンドは一気に厚底シューズが席捲します。その後、他の大手スポーツブランドもトレンドに追随し、厚底はランニングシューズで確固たる地位を確立し、その人気は2025年現在も継続しています。
専門家が語るベアフットランニングシーンの現状
近年のベアフットランニングシーンを取り巻く状況はどうなっているのでしょうか。ベアフットランニングシューズを多数取り扱う、東京?御徒町のアートスポーツ本店 橘凪海さんに話を聞きました。

アートスポーツ本店 橘凪海さん
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そもそも、ベアフットランニングシューズは何を目的としたシューズなのでしょうか?

Fスナ

橘さん
脚本来の機能を鍛えてボディバランスを整える、というコンセプトの製品が多いですね。
ここ数年は厚底シューズのブームが継続していますが、ベアフットシューズが注目されているのはその反動ということでしょうか。

Fスナ

橘さん
ベアフットランニングブーム沈静化以降は、安定して一定数のファンが存在し続けているという印象を受けます。厚底の反動で脚光を浴びているとは感じていません。
ベアフットシューズを履くランナーのランニングスタイルの傾向は?

Fスナ

橘さん
トレイルランニングで着用している人をよく見かけます。また、フルマラソンやウルトラマラソン(42.195kmを超える道のりを走るマラソンのこと)で履いている方もいますね。ある程度経験を積んだエリートランナーに近い方が、様々なシューズを試す中で、新たなエッセンスを求めてベアフットにたどり着く、というケースが多いようです。
ファッション目的で購入する人はいますか?

Fスナ

橘さん
「ゼロシューズ(Xero Shoes)」(後述)を履く人にはファッション目的の人もいると思います。しかし、今のところ当店ではそういった人はあまり見られません。あくまでトレイルランニングやトレーニングといった運動目的で選ぶ人がほとんどです。
ベアフットランニングシーンの今後について、どのように見ていますか?

Fスナ

橘さん
急激に拡大するというよりは、固定ファンに支えられ安定した需要が続いていくのではないかと考えています。
主要ブランドの特徴とベアフットシューズの選び方
現在、アートスポーツ本店ではゼロシューズ、「メレル(Merrell)」、ヴィブラム ファイブフィンガーズといった3ブランドのベアフットランニングシューズを取り扱っています。今回はそのなかから、代表的なモデルを橘さんに紹介してもらいました。

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ゼロシューズ:カジュアルに使えて初心者にもオススメ
創業者が「ボーン?トゥ?ラン」を読んだことがきっかけとなってアメリカで創業したゼロシューズ。一般的なランニングシューズのようなオーソドックスなデザインながら、軽量でしっかりとしたベアフット感覚(地面の感触をダイレクトに感じること)が得られるのが特徴です。下の「プリオ」というモデルは、アウトソールの耐久性やグリップ力が高く、普段履きからランニングまでカジュアルに使えるので、初めてベアフットシューズを選ぶ人にもオススメです。

ゼロシューズ プリオ
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ゼロシューズ プリオ
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ゼロシューズ プリオ
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ゼロシューズ プリオ
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ゼロシューズ プリオ
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同じくゼロシューズのサンダルタイプ「ジェネシス」は、「ボーン?トゥ?ラン」にも登場したメキシコのタラウマラ族が履いていたワラーチというサンダルが原型です。主にロード向けですが、軽めのトレイルなら対応できるグリップ力があります。薄くて軽く、場所を取らないので、登山のテント場などで履くセカンドシューズとして使う人も多いんだとか。

ゼロシューズ ジェネシス

ゼロシューズ ジェネシス
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ゼロシューズ ジェネシス
Image by: ゼロシューズ ジェネシス

ゼロシューズ ジェネシス
Image by: ゼロシューズ ジェネシス
メレル:圧迫感が少なく開放的な履き心地
トレッキングやトレイルランニングなど、アウトドア系のシューズの人気も高いメレルのベアフットランニングシューズは、ゼロシューズよりも更にボディ全体が柔らかく、より強い素足感を得られるのが特徴です。代表モデルの「ベイパーグローブ」は、ラグ(アウトソールの凹凸)がしっかりしているので基本的にはトレイルランニング用ですが、ロードでも走りやすく作られています。また、トゥボックス(つま先部分の空間)が非常に広いので、指周りの圧迫感が少なく、開放的な履き心地を好む方にオススメです。

メレル ベイパーグローブ
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メレル ベイパーグローブ
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メレル ベイパーグローブ
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メレル ベイパーグローブ
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メレル ベイパーグローブ
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ファイブフィンガーズ:素足感が強くボディビルダーも愛用
ベアフットランニングブームの火付け役であるファイブフィンガーズは、今回ピックアップした中では、最も素足感が強いブランドです。最大の特長はやはり、指が5本に分かれていること。最初は着脱に苦労しますが、慣れると自分の足の指の向きまでしっかり認識できるので、母指球(親指の付け根のふくらみ)に近い部分での着地や、足指を使った蹴り出しを意識しやすくなります。代表的なモデルの「V-Train 2.0」は、山以外のほぼ全ての用途で使えるオールラウンドなモデルです。かかと周りや土踏まずのサポートがしっかりしているので、ファイブフィンガーズの中では比較的普通の靴に近い感覚で履けます。横の動きにも強いため、最近はウェイトトレーニングで使う人が多く、ハードコアなボディビルダーにも愛用されています。

ヴィブラム ファイブフィンガーズ V-Train 2.0
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ヴィブラム ファイブフィンガーズ V-Train 2.0
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ヴィブラム ファイブフィンガーズ V-Train 2.0
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ヴィブラム ファイブフィンガーズ V-Train 2.0
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橘さん
私はファイブフィンガーズとゼロシューズをメインで使っており、フィットネスジムではファイブフィンガーズを、雨天時のランニングやトレイルまでの移動などではゼロシューズのサンダルを履く、というように使い分けています。
今回はファッションを起点にベアフットランニングについて掘り下げました。実は筆者は2010年頃のブーム時に知人の勧めで「ボーン?トゥ?ラン」を読んで感銘を受け、ファイブフィンガーズをジョギングのときだけでなく、普段遣いのスニーカーとしても数年間愛用していた経験があります。その頃と比べると、近年のベアフットランニングシューズはデザインのバリエーションも増え、ファッションに取り入れやすいアイテムが増えていることに驚くばかり。ファッション的な支持についてはまだまだこれからな印象とのことですが、逆に言えば成長余地が大きいということ。人気ブランドとのコラボレーションなどがきっかけとなり、注目度が飛躍的に高まるかもしれません。今後の展開に注目です。
1980年神戸市生まれ。関西学院大学社会学部、エスモードインターナショナルパリ校卒。ファッション企画会社、ファッション系ITベンチャーを経て、フリーランスとして活動した後、FASHIONSNAPに参加。ファッションを歴史、文化、政治、経済などの視点から分析し、知的好奇心を刺激する記事を執筆することが目標。
最終更新日:
■アートスポーツ 本店
所在地:東京都台東区上野3丁目25?10
営業時間:10:00?20:00
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