ADVERTISING

【香水連載 vol.31】香りで語るクォンタン?ビッシュ、自らを語る

Image by: Diptyque

Image by: Diptyque

Image by: Diptyque

 フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。

 今回は、数多くのメゾンの世界観を香りで巧みに描き出すクォンタン?ビッシュ(Quentin Bisch)の思考プロセスに迫る。

ADVERTISING

世界最大手の香料会社「ジボダン」に所属。2010年にデビューし、2023年にはフレグランス業界で最も権威のある賞のひとつ「Prix du Phénix」を受賞

Image by: Diptyque

 今をときめく調香師、クォンタン?ビッシュ。その名を知らなくても、彼のクリエイションには必ず触れたことがあるはずだ。例えば「イッセイ ミヤケ パルファム(ISSEY MIYAKE PARFUMS)」の「ル セルドゥ イッセイ」や「ロエベ パルファム(LOEWE Perfumes)」の「001 マン」、「フェンディ(FENDI)」創業100周年を記念したフレグランスコレクション、「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」、「イヴ?サンローラン?ボーテ(Yves Saint Laurent Beauté)」などのハイファッションブランドから、「ラルチザン パフューマー(L'ARTISAN PARFUMEUR)」や「メゾン クリヴェリ(Maison Crivelli)」などのメゾンフレグランスまで、創作のオファーは数知れず。

 最近ではフランスのビューティ業界専門誌「cosmétiquemag」が主催した「cosmétiquemag 2025アワード」で、彼の調香による「マルク=アントワーヌ?バロワ(Marc-Antoine Barrois)」の「アルデバラン(Aldebaran)」がニッチフレグランス部門とZ世代審査員特別部門で金賞を受賞し、さらに脚光を浴びている。

「レ ゼサンス ドゥ ディプティック」オー ド パルファン全6種。左から:リリフェア、ローズ ロッシュ、ルナマリス、ボワ コルセ、コライユ オスクロ、ラズリオ(各100mL 4万7410円)

Image by: Diptyque

 「ディプティック(Diptyque)」の「レ ゼサンス ドゥ ディプティック」の最新作「ラズリオ」を手掛けたのもビッシュ。このプレミアム フレグランス コレクションは香りを持たない自然の宝物を着想源に、現代をリードする調香師たちに香りをデザインさせるものだが、ラズリオは「クジャクの羽」をテーマとしている。

 「クジャクが羽を広げると一瞬にして人を虜にする、目が離せなくなるような力強さ。その磁石のような吸引力と、羽の柔らかさとのコントラストを香りで描き出したいと思ったんだ。力強さとなめらかさ、酸味と甘味のバランスを生み出すことが必要で、ルバーブやベンゾイン、ベチバーを使ってバラドックスやコントラスを作り出すことは当初から頭に浮かんだけれど、さらにもう一度使いたいと思わせる中毒性を呼び起こす香りに仕立てることにこだわった」

ラズリオに使用されたキー香料。ベンゾイン(安息香)はラオスのコミュニティとのフェアトレード原料

Image by: Diptyque

 ところで、ビッシュが調香師になるまでの経緯は非常にユニークである。香りを愛でる両親のもと、季節ごとに美しい花々の香りがあふれる環境で育った幼少期に香りへの情熱が育まれた、というのはよくある話。驚かされるのはそのあとだ。

 「9歳くらいの頃に“大人は一人ひとり違う香りをまとっている”ことを理解し、それぞれの香りを探求するようになったんだ。道端で声をかけて質問したり。さすがに20歳を過ぎてからは変なナンパに思われるので『調香師になるので~』と言っていたけどね(笑)。11歳の時に衝撃だったのは、当時のカリスマティックな先生がまとっていた、ちょっとタバコが混ざったような香り。最初に質問した時はひどく怒られたけれど、3ヶ月くらい経って『オピウムですよね?』と尋ねてから、先生との間で謎かけが始まったんだ。毎週会うたびに違う香りをまとってくる様は見事だったよ」

「クジャクの羽という素晴らしく美しいインスピレーションを得て、この香りは強い語り口でしか表現し得ない」とビッシュ

Image by: Diptyque

 ところがそのまま真っ直ぐに調香師への道を歩んだわけではない。香りへの思いは持ちつつも、幼少期はダンサーを目指していて、18歳から25歳くらいまで舞台演出や音楽を手掛けていた。その後ジボダンパフューマリースクールで学び、調香師としてデビューしている。

 「調香の世界は音楽や映画と似ているんだ。消費されるものであり、人をどう楽しませ、誰にベネフィットを持たせるのかを考える。その一方で、作る側の魂が食われないよう思考する力を失えば、消費の世界に取り込まれてしまうシステムであること。香りがアートであることを思い起こさせてくれるのは、舞台演出の経験があってこそだね」

丸いキャップはアルミニウム、ボトルにはリサイクルガラスを使用。「オー ド パルファン ラズリオ」(100mL 4万7410円)

Image by: Diptyque

 遅咲きながら、物語性をきちんと持たせたフレグランスを多種多彩なブランドで生み出してきたビッシュ。「自分の魂が食われないよう」自らのブランドを立ち上げようと思ったことはないのだろうか?

 「語るものも多いし、自分のブランドを立ち上げたら?とは何度も言われますね。でも自身のブランドを立ち上げるのはかなりエネルギーが必要なことだし、必ずしも正しいタイミングではない気がしている。ここ10年くらい、あまりにもプロジェクトが多いのは事実。少数のプロジェクトに絞って自分の時間を生み出し、自身を客観的に観察する必要がある」

どんなテーマであっても自身の感受性との間で生じる感動、感覚をオーセンティックに表現する

Image by: Diptyque

 また、SNSが盛んな今の時代に立ち上げることに疑問を感じている。

 「フレグランスのあるべき姿からかけ離れるのではないか。スター性がパワーを放つ今、アート性を体感することがスクリーンに遮られているようにも感じているし、クリエイターとして自身にフォーカスを当てるのがいいことなのだろうかとも思う。メゾンの世界観やDNAを美しく表現するという今の状況を幸せに感じているので、メゾンの専属パフューマーとして自分のペースを確保することもひとつの手かもしれない。全てはタイミングと機会次第だね」

 将来的には、香りの「伝承」をライフワークとして考えているという。

 「若い調香師に教え始めていて、その意義を実感している。生徒の特性や繊細さを受け入れたうえでの教えは美しいプロジェクトになると思う」

 錚々たるメゾンを手掛けていながら、実はまだ42歳。ビッシュの今後の動向に大いに注目したい。

最終更新日:

ビューティ?ジャーナリスト

木津由美子

大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。

??問い合わせ先
ディプティック:公式サイト

ADVERTISING

RELATED ARTICLE

関連記事

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント