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【インタビュー】個性を磨くために必要なもの 「キディル」末安弘明が貫くパンク精神

右:末安弘明

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

右:末安弘明

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【インタビュー】個性を磨くために必要なもの 「キディル」末安弘明が貫くパンク精神

右:末安弘明

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 末安弘明が手掛ける「キディル(KIDILL)」は、コレクション発表の舞台をパリに移して以降そのクリエイションを一段と洗練させている。その理由を探るべく、2026年春夏パリメンズファッションウィーク中に開催した展示会を訪ねた。

展示会風景

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中途半端なものは作れない

── 「秋葉原」に着目した今シーズン。まずは、ショーの手応えからお聞かせください。

 (取材時は)ショーの直後なのでまだ来場者と深く話せてはいませんが、特にアメリカのバイヤーさんなどからは「面白い」という評価をいただいています。アメリカではアニメやフィギュアなどが好きな、日本特有のいわゆる「オタク文化」の人気が高いそうで。今シーズンのムードはこれまでやってきたパンクとは少しずれるかもしれませんが、逆に新たな一面として新鮮に映っているようです。コレクション全体を通して「カワイイ」というムードは出したいと思っていたので、良い感じに伝わっているのかなと。

可動式ウサ耳カチューシャは「ビューティビースト(beauty:beast)」出身のデザイナーが手掛けるアクセサリーブランド「中央庁戦術工芸」とのコラボレーションアイテム。

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>>2000年代のオタクカルチャーに着想を得た新作コレクションをレポート

キディルが提案する「新しいパンク」とは何か “秋葉原カルチャー”とファッションに通じる無限の想像力

FASHION注目コレクション

──?前回から、より「日本らしさ」を意識的に打ち出しているように感じます。何かきっかけがあったのでしょうか?

 前回は「原宿」をテーマに、ショーでは和楽器バンドによる演出を加えるなど、露骨なくらい“日本的な要素”を取り入れました。バックグラウンドや狙いを調べないとわからないような複雑な表現よりも、パッと見て「これだ」と伝わる方が海外でも分かってもらいやすいだろうなと。実際反応にも変化がある気がします。でも、一番の理由は、自分が日本人だからというシンプルなものかもしれません。パリで発表していると、改めて海外の方々が日本の文化を好きなんだなと感じる機会が多くて、キディルでも日本らしさを意識的に打ち出し始めました。今シーズンコラボしたタツノコプロさんも日本の老舗ですしね。

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──?そもそも、発表の場をパリに移した経緯は何だったのでしょうか?

 2017年に「Tokyo 新人デザイナーファッション大賞」2021年に「TOKYO FASHION AWARD」を立て続けに受賞できたので、東京都の支援を受けて継続して海外で展示会やショーをすることができたことが具体的なきっかけですね。でもそうした支援を受けてパリで何回か発表ができても、取引先が決まらないブランドは脱落してくものだけど、幸いなことにそのタイミングで海外の取引先が順調に決まっていったので、サポート期間が終わった後も自力で継続できています。

── パリでの展示会も賑わっているようですね。

 既存店に加えて、今日は台湾やイタリアから新規のバイヤーさんのアポイントが入っていたり、回数を重ねる中で、最近ようやくブランドの名前が浸透してきたという手応えを感じています。昨日も「ドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS」で初対面の方に「キディルのデザイナー」だと伝えたら知っていてくれたり。

 一方でショーは公式スケジュールの初日*という不利な立場なので、展示会だけいらっしゃるバイヤーさんがほとんどです。

*パリファッションウィークの初日と最終日は客入りが少なくなる傾向にある。

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── 海外ではどのような地域で展開しているのでしょうか。

 アメリカを中心に、韓国や香港、上海、ドイツ、オーストラリア、モスクワなど、結構あります。特にアメリカでは評判が良く、セレブリティの着用も増えていて、最近だとジャスティン?ビーバー(Justin Bieber)がプライベートで着てくれていた「アンブロ(umbro)」とのコラボの反響が大きかったですね。ようやく、ヨーロッパのクライアントも少しずつ増えているところで、比率で言えば日本が6割、海外が4割といった感じです。

ジャスティン?ビーバーが着用した、アンブロコラボのウサ耳つきトラックジャケット。2025年春夏コレクションより。

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──?国や地域によって人気のあるアイテムの傾向に違いはありますか?

 全然違います。まず第一に気候による違いが大きいですよね。当たり前ですが、暑い国はアウターをオーダーしませんし、逆に寒い国では半袖の動きが鈍い。でも共通しているのは、キディルに対しては、キディルらしいものや、少し変わったもの、派手なものが求められているということです。コレクション全体のバランスの都合から黒一色でシックに仕上げたアイテムも作っていますが、正直売れません(笑)。ブランドにはそれぞれ役目があって、キディルに求められているものもコレクションを重ねるごとに理解できるようになってきました。

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──?海外で壁にぶつかったことは?

 ありがたいことに、これまでは割と順調です。年々お客さんも増えているし、売り上げがガクンと落ち込んだことは一度もありません。自分の中で毎回「パンクをやる」って決めているからブレることもないし、「キディルはパンクが好きな人が着るブランド」だとお客さんにも伝わっている。ある意味好き嫌いがはっきり分かれるからこそ、本当にキディルが好きな人が来てくれて、周囲から何かクリエイションに対しての意見を言われることもありません。

── 東京でコレクションを発表していた頃との違いを教えてください。

 パリで発表するからには、中途半端なものは出せない。正直「売れるかどうか」は二の次で、とにかく振り切ったものを発表する。それが、東京で発表していた頃との一番の違いです。海外で発表を始めた頃、コロナ禍が明けた頃くらいから、ブランドが大切にしている「衝撃」と「服を着る楽しさ」だけを追求するために「良い素材で肌触り良く」、みたいな考え方を捨てました。とにかく自分が作りたいデザインを実現することを第一に考えるようにしたんです。東京にいると、どうしても「店頭で売れる服」を目指してしまい、結果的にデザインが地味になりがちでした。でも、パリではそれは通用しない。そうすると、結果的にクリエイションは研ぎ澄まされていくんだと思います。

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──?表現を振り切ったことで、逆輸入的に東京での反応にも変化はありましたか?

 店も取引先もかなり入れ替わりました。すごくこだわりを持った服を求めているお客さんが通うお店がどんどん増えています。

──?ヨーロッパの顧客たちからはどのような点が支持されていると思いますか?

 ショーのモデルの約半数はストリートキャスティングで、現地のミュージシャンやアーティストを起用しています。そうしたローカルの“かっこいい子”たちを通じて、その周りのコミュニティにもブランドが自然に広がっていっている感覚があります。また、先シーズンから「ドーバー ストリート マーケット パリ」で取り扱いがスタートするなど、感度の高いお客さんが集まるお店で取り扱ってもらえていることも要因の一つだと感じます。コラボレーションの影響力も大きくて、先シーズンのブレット?ウエストフォール(Brett Westfall)や継続している「フィレオ(PHILEO)」など、お互いのファンがブランドを知るきっかけになっていて、良い循環が生まれていると感じます。

──「ルルムウ(rurumu:)」とのコラボも双方のお客さんが相手のブランドの服を買うようになるなど、継続的な相乗効果が見られたとか。

 そうですね。ルルムウとのコラボのようなシナジーを、海外のクリエイターとも実現できている手応えがあります。両者がお互いに共感し、リスペクトを持って手掛ける真の意味でのコラボだからこそ、ファン同士も共感してくれて、広がりが生まれているのかな。

文化服装学院 12階の学生ホールで撮影した東佳苗のフィルム写真

ルルムウのデザイナー 東佳苗は末安と同じく福岡県出身

【あの人の東京1年目】デザイナー 東佳苗と新宿(文化服装学院)

CULTUREあの人の東京1年目

パンクを貫き、「新しいパンク」を作る

── 改めて、キディルの根幹にある「パンク」とは何ですか?

 僕の根幹にあるのは、1970年代のクラシックなパンクです。そして、そうしたカルチャーの歴史や文脈を深く知った上でデザインすることが重要だと考えています。僕はオタク気質なので、自分の好きなパンクには深い知識を持っている自負があります。一方で、知識のない人がただファスナーがたくさん付いた服を作っても、それは「パンク風」の何かに過ぎず、作り手にパンクの知識があるかどうかで、生まれる服には雲泥の差ができると思います。パンク文脈のアーティストとのコラボレーションにおいては、「バウハウス(BAUHAUS)」や「スージー?アンド?ザ?バンシーズ(Siouxsie And The Banshees)」、写真家のデニス?モリス(Dennis Morris)といったパンクの歴史に名を刻んでいる“本物”のアーティストたちと共にものづくりをすることを徹底しています。

1960年代にモッズ文化から派生した労働者階級の若者たち「スキンズ(Skinheads)」が愛用したことでも知られる、イギリス発「バラクータ(BARACUTA)」とのコラボで製作した2026年春夏コレクションのジャケット。バラクータのアイコンジャケット「G9」をベースにしたデザイン。

Image by: KIDILL

──?「パンク」を一貫する一方で、変化していることは?

 「変えよう」と思っているのは、変わらずに続けていく「パンク」に「新しいもの」を加えていくこと。「毎回一緒だね」と言われないように、ということはめちゃくちゃ意識しています。そうした「新しさ」は新しいお客さんとの出会いに繋がるし、ずっと買ってくれているお客さんだって前と同じものは買わないじゃないですか。ずっと同じものを作り続けるデザイナーも悪くないですが、服を買う時ってやっぱり新しいものを着たい。だからこそ、前シーズンに拘らない、引きずられない、キディルらしさはありながら毎回新しいパンクを見せることを重視しています。

──?ビジネス面において、ブランドを成長させるために計画していることを教えてください。

 現在渋谷と京都に直営店があるんですが、まずは渋谷店を移転して大きくしたいですね。今の店舗は少し手狭なので。大阪など他の都市への出店も考えたいのですが、すでにお世話になっている取引先があるので、なかなか難しいのが正直なところです。これは多くのブランドが抱える課題かもしれません。

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──?現在、パリではプレゼンテーション形式で発表されていますが、今後はランウェイショーも視野に?

 「プレゼンテーション」から「ランウェイ」*の枠に上がると、モデル代金や会場代など、実際にかかる費用が現実的ではなくなるので、もう数シーズン様子をみたいと思っています。実際、ランウェイの枠にしないかという提案も受けてはいるんですが、今のところはこのプレゼンテーションという形式で、表現できるギリギリまで突き詰めていきたいと考えています。

 *「パリファッションウィーク」を運営するのはオートクチュール?モード連盟。同連盟が定めた公式スケジュールの中には「ランウェイショー」と「プレゼンテーション」の2種類があり、ショーの方が規模や予算が大きく、“格が高い”とされている。

──?最後に、ブランドとしての展望や、ヒロさん自身が挑戦したいことを教えてください。

 最近、ありがたいことに外部からディレクターをやってほしい、といったお話をいただくようになりました。キディルの活動が認められて、新しい可能性が広がってきたのを感じます。今後はそういった外部での仕事にも挑戦してみたいと考えています。そこで得た経験や繋がりが、またキディルのクリエイションを豊かにし、もしかしたら、いつかはパリでのランウェイショーを実現するための力になるかもしれません。

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

橋本知佳子

Chikako Hashimoto

東京都出身。映画「下妻物語」、雑誌「装苑」「Zipper」の影響でファッションやものづくりに関心を持ち、美術大学でテキスタイルを専攻。大手印刷会社の企画職を経て、2023年に株式会社レコオーランドに入社。若手クリエイターの発掘、トレンド発信などのコンテンツ制作に携わる。

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