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華やぐパリコレの裏通りにあった服に施した実感 マシュー?M?ウィリアムズとペナルティメイトをレポート

Penultimate/Matthew M. Williams 2026年春夏

Image by: Photo: Courtesy of Penultimate / Courtesy of Matthew M. Williams

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華やぐパリコレの裏通りにあった服に施した実感 マシュー?M?ウィリアムズとペナルティメイトをレポート

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 結論から言うことになるが、モードの中心地であるパリだからといって諸手を挙げてファッションショーが面白いとすることは出来ない。しかし、ショーを凌駕するが如く、作り手のアイデアや思索がびっしりと詰まった、展示会でしか発表されない服にも、自ずと視線が向かうのは自明の理だろう。残念ではあるが事実だから仕方がない。殊更パリでは非公式のショーでもプレゼンテーション枠での発表でもない場所に粛々と傾きつつあるのは、誰が何を考えてそうしているのか分かり難いが、確実に「パリはショーだけではない」という変動が生じている。

ペナルティメイトが描いた人と人との関係性

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Penultimate 2026年春夏

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 「ペナルティメイト(Penultimate)」のシャン?ガオ(Xiang Gao)が服に面白い趣向を取り入れている。少しく複雑で、外観を整理することにおいて混乱を感じるが、それでも尚、経験値がその辺りを補っているものだと思うのだけれど、思索的な服作りに彼女の個性がキッチリと見て取れるから、期待が持てる。絶対と相対、土着と外来、精神と肉体などの観念を表裏一体とする二元論に生きる創作とすると少々小難しく感じるが、感情や背景、コミュニケーションといった眼に見えないものに焦点を当てた創作を基本的な理念とする2018年に創設されたブランドである。現在の拠点は中国、上海であるが、ニューヨークのパーソンズ美術大学で修士号を取得し、ラフ シモンズ(Raf Simons)が手掛ける「CALVIN KLEIN 205W39NYC」で2年間、ニットデザインを担当するなど米国で長らく生活していたこともあってか、そこでの生活からも着想を得ている。1970年代初頭にサンフランシスコで活発化したウェアラブルアート運動を彷彿とさせる流儀を横に据え、服作りの定義には留まらない技法を積極的に採用したことが徐々に広まり、LVMHプライズ2025ではセミファイナリストに選出された。

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 2026年春夏は6月のパリメンズファッションウィーク中に、フルコレクションを展示会で披露。主題は「Heartland(ハートランド)」。建築家兼デザイナーのシオン?フェン(Xiong Feng)が中国、崇明島に設立した農場とエコハウスの名をタイトルにしている。永続可能な社会システムをデザインするための手法であるパーマカルチャーを基軸にしたこの場所でルックブックの撮影もしており、シャンはハートランドを主題、着想にした理由を「現在中国でも日本と同様に、都会から離れた場所で暮らす兆候が目立ち始めています。この人々の行動原理とブランドらしさを併せ持つこの地に眼を向けました」と語っている。この土地は水と緑が豊かで、映画の美術のような小屋がいくつも並ぶ。この土地に親和性のあるテクスチャーとして、素材ではラフィア地をベースにビスコースと合わせたり、他にも労働時に生じる汗をデフォルメしたアクセサリーや現地のタイダイ染めのアーティストと組んでオリジナルの柄を作っている。また、作品群の象徴として稻草人(中国のカカシ)に見立てたラフィア地で作られたアートピースも手作業で作られている。

ハートランド
ハートランド
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 作品群の全編に渡ってワークウェアが主となっており、これには詩人であるリ?シン(Li Shen)の「憫農」という詩の一節で、「農作業で疲れて、真昼の太陽の下、汗を滴らせながら、農民が田んぼを耕している。その汗は土に染み込んでいる」を意味する「锄禾日当午 汗滴禾下土」を下地にした労働者に対するオマージュが込められている。シャン自身も工場を構えており、針子4名、カット専門技師1名のチームを組んでいる。「私自身も常に現場にいる人たちと共に創作に向かっています。明確な意識があったわけではないけれど、自然と自分の日常的に眼に映る仕事をしている人の姿が反映されたのかもしれません」。また、アフリカンファブリックを豊富に使用しており、農作場で働く人の収穫とその際に行なわれる祝祭、民族観などが現れているが、これも具体的な着想というよりも外観、設計、素材選定などのリサーチの過程で得たモチーフだという。明確にビジュアライズしたり、独自のデザイン言語を設けることなく、あくまでも自然体に赴くままに、題材の可能性を探るのが彼女のスタイルといったところなのかもしれない。

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 「ウェアラブルアート運動家にカイジック?ウォン(Kaijik Wong)という中国系米国人のファッションデザイナーがいました。サルバトーレ?ダリ(Salvador Dalí)を始めとしたアート界との文化的な交流もあった人物で、パターンを一切使わず、ほとんどが手作業で作られており、フォークアートやクラフトがグラスルーツアートの最前線にあった時代を如実に反映していた作り手です。彼のような作家や作風をフィルターにモダンの思索もしています」という言葉から、「作る」という行為を「他者」と共有し分かち合うことが、彼女の創作活動の根底にあるように感じさせる。それぞれのルックはそれぞれの「場所」で一人ずつが映し出されているが、一人には感じさせない。ここでいう「他者」とは、服を着る「自分」にとっての精神的に親和性のある「誰か」である。人と人の関係性のカタチをジャケットやシャツ、パンツといった仕様、生地の風合いとった手作業に宿る作り手の意志が明確に落とし込まれている。

 だからこそ見慣れない自然豊かな架空の舞台を以ってしても馴染んだ空間になっているのだろうし、シャンのコアを感じることができるのかもしれない。「創作の核に見えるのもありますが、私にとってはどれも見慣れたものです。見慣れていないものをリファレンスにする時もありますが、作品群が完成する時には自分の手中に収まっています。それに至るまでの実験感覚が実践に繋がっているのでしょう。今は小さなブランドで身の回りからコツコツと育んできましたが、ニューヨークや東京、そして今年のLVMHプライズを通して、人々からの関心を直に感じることができました。パリで展示会を開催した契機はその他者からこのブランドを見た眼です。膨大な拡張は望んでいませんが、刺さる人には刺さると実感したので、好機を逃すことはしたくありません」と彼女は語っている。

マシュー?M?ウィリアムズの新ブランドが堂々デビュー

Matthew M. Williams 2026年春夏

Matthew M. Williams 2026年春夏

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 2025年6月初旬、「アリクス(1017 ALYX 9SM)」の創業者マシュー?M?ウィリアムズ(Matthew M Williams)は新たに自身の名を冠したブランド「マシュー?M?ウィリアムズ(Matthew M Williams)」を始動させ、2026年春夏パリメンズ期間中に展示会で新作を発表。セールスはSeiya Nakamura 2.24が担当し、6月26日から7月1日まで開かれたショールームには2000件以上のアポイントが殺到したよう。ジャケット4型、トップス38型、デニムも含むパンツ36型、アクセサリー10型、シューズ13型で価格のレンジは幅広く、デリバリーは2026年初旬、男女混合の作品群だが、従来のメンズブランドと同様のシーズンをこなしていく予定となっている。主題やコンセプトはなく、ルックも実にシンプル。あくまでもマシュー自身のパーソナルなスタイルをベースに、これまで培ってきた世界中の敬愛する職人を始めとしたコラボレーターたちと創作していくようだ「アリクス」の斬れ味とはまた違った味覚の......いや感覚よりもある種の突っ張った姿が先行する。は人間像を重要視するというよりも、彼の時代の流されない構え(スタイル)に惹かれる。

Matthew M. Williams 2026年春夏

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 「このブランドは、私自身のパーソナルで生の感覚を大切にしています。すべての製品は私の創造的なエネルギーの源に根差しており、手仕事ならではの小さな不完全さが、そのクラフト性を物語っています」と語るように、「時流」や「流行」という言葉が「今」といった曖昧な言葉で日々括られていくものだとするならば、そんなものに、彼は敢えて反旗を翻したりはしない。むしろ正統とか前衛とかいう概念のほとんど成立しないところに、これからの彼の創作世界は生きていくはず。現に「このブランドは、私が最も愛するものを基盤にしています。シーズンテーマに縛られることなく、私の人生や趣味と共に進化し続ける、常に展開し続けるエバーグリーンなスタイル群を生み出しています」ともいっているのだから、尚更頼もしい。

Matthew M. Williams 2026年春夏

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 ある種の反時代的な志向は、作られたストリートの文脈に自らの意志とは関係のないところで乗せられ、創作世界を狭めてしまうのであれば、間が抜けているように見えたように聞こえるかもしれないけれど、何処を切り取っても同じような様子を呈する服が蔓延する「今」にあっては、個人的なものに帰結するのも頷ける。マシューの場合、彼の服は彼自身が装うことで始まる。それは彼の確固たるオリジナリティーであろうし、マシューが尊敬する日本の作り手たちの姿とも重なる。「拠点はパリにありますが、活動はグローバルに展開しています。私の名を冠したブランドのプロダクトですから、私が大好きな職人たちと協働していくのは自然な流れです。アーティザナルなデニムは日本で作られていますし、シューズはスペインで作られ、ジャージー素材はアメリカのコットンを使用していて、アウターやジャージー、テクニカルウェアは香港の親しい作家との共作です。そもそも自分自身の名をブランド名に冠しているわけで、これまで以上に創作すべてのプロセスに深く関わっています」とあくまでも起点はマシューにあることを認めている。アナーキーとまではいわないのは、時代離れに見えたとしても、実はこれまでとは随分と違う立ち位置で時代の傍観者であり、観察者的な構えでいるため、流れに背いでいくのではなく、しっかりとコミットしている。それが自然にできてしまうのだから並ではない。

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エディター

関口究

Kiwamu Sekiguchi

「QUOTATION」「QUOTATION FASHION ISSUE」にてエディターを務める。国内外にてファッションショー及び、ファッションデザイナー、ショーの舞台裏で活躍するクリエイターへの取材を続けるほか、各地域の専門学校での講義や講評審査員を務めるなど、次世代への取材?教育にも携わる。

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