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“フリーター”になった石川涼が語る、次の一手 「買わせない」戦略とコミュニティ

石川涼のポートレート

Image by: FASHIONSNAP(Masaki Kiyokawa)

石川涼のポートレート

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“フリーター”になった石川涼が語る、次の一手 「買わせない」戦略とコミュニティ

石川涼のポートレート

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 2000年代の“ギャル男”カルチャーを象徴するブランド「ヴァンキッシュ(VANQUISH)」と、SNSの波に乗って世界中の若者の注目を集める「#FR2」。2つのブランドで時代を席巻してきた石川涼が、株式会社せーのの社長を退任したというニュースは、ファッション業界内外で大きな話題となった。退任後初というインタビューで語ったのは、2度の成功の背景と、“次”の戦い方。「非日常を探し続けている」という石川に、26年間を振り返ってもらった。

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業界常識に「NO」 アンチテーゼの系譜

??せーの社長を退任すると10月31日に自身のSNSで公表し、業界内外に衝撃が走りました。

 もう「元ヴァンキッシュ代表」とか、「元#FR2代表」とか、そういう肩書きで呼ばれるのも嫌です。「ブランドに対して愛が無いからそんなことを言うのか」って思われるかもしれないけど、そういう話じゃない。「元????でした」みたいに自分のことを語る人が、世の中にはいっぱいいるじゃないですか。僕はそれをずっと否定してきた。だって、元が何かよりも「今、お前が何をしているのか」の方が大事でしょう。だから今は、自分のことをあえて「フリーター」って名乗っています。

石川涼(いしかわ?りょう)/“フリーター”
1975年、神奈川県生まれ、静岡県育ち。20歳のときに上京。OEMメーカーに4年勤務した後に独立し、2000年にせーのを創業。2004年にメンズブランド「ヴァンキッシュ」をスタート。2016年にウサギをアイコンにしたブランド「#FR2」を立ち上げた。2025年10月31日付でせーの社長を退任。キャップに入った茶目っけたっぷりな刺繍ロゴ「I DON'T WORK, NEVER(俺は絶対に働かない)」にもぜひ注目を。

??OEM企業から独立して以降の26年間で、ヴァンキッシュ、#FR2と2回も大きなブームを作ってきました。1回当てるだけでも十分すごいですが、2回当てられる人は、どんな分野でもそう多くはありません。

 いつも「どこに非日常があるか」を考えてきました。それが、全く違うマーケットで、全く違う売り方のブランドを2回作ることができた理由だと思います。

 ヴァンキッシュを始めたのが2004年。お金がなかったから、ECと卸でスタートしました。当時は世の中がようやくインターネットを触り始めた頃で、携帯はもちろんガラケー。ガラケーの小さな画面で服を売るっていうことを、ファッション業界の本流の人たちは馬鹿にしていましたよね。あんな小さな画面じゃ素材感もサイズも分からない。売れるわけがないって。

 でも僕は、周りの若い子たちが一生懸命小さい画面で服を買っているのを見て、この流れが絶対にくると思った。店に行かないで服が家に届くというのは、当時は非日常でした。

 それから10年経つと、オンラインでものを買うことにみんなが慣れて、SNSも発達してきた。世界中の人がスマホで繋がっていったのが2010年代です。そうなると、今度はECで買えないものの方が非日常になって、そっちの方が価値が上がる。それで、#FR2では観光地に出店してECは絞り、わざわざ行かないと買えない、いつでも買えるわけではない状況を作り出しました。それがすごく当たったんですよね。

石川涼のポートレート画像

2014年のインタビュー時の写真(上)と、あえて同じポーズを取ってもらった。11年前の腕時計はロレックス、今回はパテック フィリップ

??石川さんと言えば、ファッション業界や世の中の“当たり前”に、常にアンチテーゼを投げかけてきました。

 若い頃から、業界の常識みたいなものはすごく嫌いでしたね。中でも当時一番違和感があったのが、ブランド側の担当者が雑誌編集者やスタイリストにすごくヘコヘコしていたこと。インターネットがなかった時代は、自分のブランドを売るためにはファッション誌に載るしか方法がなかったから、そうせざるを得なかったんですけど。でも(ブランド側と雑誌の力関係は)、お客さんには全く関係ない事情ですよね。

 雑誌やファッション業界が、「パリコレに出たから次はこれがトレンドです」とか、「来年はこの色が流行ります」といったようにトレンドを作ろうとすることにも、一体何を言っているんだという思いがありました。あれもインターネットがなかったからこそ成り立っていた世界です。でも、インターネットが広がって(世の中の多くの人の声が可視化されて)、業界人が上から押し付けるものではなく、お客さんがいいと感じるものこそが正しいということが証明された。あの時感じていた俺の違和感は正しかった、自分の信念は正しかったと、時を経て思います。

??FASHIONSNAPが2014年に行ったインタビューを読み返しても、発言の軸となっている考え方は今と同じです。

 あの時のインタビューは、「ファッションは終わり、感動するものだけが残る」というタイトルで、結構激しいことを言ってました。でも内容をしっかり読んでもらえば、世界はその通りになったと感じてもらえると思います。当時はインスタグラムがこれほど流行る前でしたが(編集部注:インスタグラムの日本版のローンチは2014年2月)、感動して、共感して、それを共有する時代になるという直感があった。本当にそうなったでしょ。

会員制バー「オリーブ」で試す
コミュニティ消費モデル

??石川さんが次に何をするのか、知りたがっている人は多いです。

 実は「ディバイディッド ステイツ オブ オリーブ(DIVIDED STATES OF OLIVE以下、オリーブ)」というプロジェクトをスタートしています。洋服屋じゃなく会員制のバーを作って、そこに来た人しか買えない大人向けのグッズみたいな立ち位置。ブランドというか、これからの売り方を考えるテストマーケティングみたいな感じです。

 世の中に対して広く大きく売っていくという商売のあり方に対して、これからは小さなコミュニティを作って、その中に入っていくことがステータスになるんじゃないか。そういったことを考えながら、色々とテストを進めています。バーは、いまフランチャイズも含めて東京の広尾、下馬、香川の高松にある。年明けには京都の鴨川にもオープン予定です。

 みんながやっているようなことには価値がないと思っています。オリーブのような売り方をしている人はいないと思うし、自分もやったことがなかったので、挑戦ですね。バーはあえて分かりにくい場所で、行きたくても行けない、会員制で入りたくても入れない。だから価値が出る。こういう方向へ進んでいるのは、世界が便利になりすぎた反動だと思います。

 ヴァンキッシュも#FR2も、その時の20代に向けて設計していましたが、オリーブは初めて自分の世代や自分が欲しいものを形にしています。ヴァンキッシュは当時渋谷にいた男の子たち、#FR2は、世界に出ていきたいと思っていたので、世界の20代が興味あるものを考えて設計しました。自分や自分たちの世代に向けて作るようになったのは、単にそっちにチャンスがあるかなと思ったからです。

??今の話に、これからの時代に人の心を惹きつけるためのヒントやキーワードが詰まっているように感じます。

 SNSをみんなが使い始めた頃は、“インスタ映え”って言葉ができたくらい、みんな急にカメラマンになりました。そして、高級なバッグや時計の写真を投稿するようになった。モノに固執して、かっこいい写真を撮って「いいね」をもらうことがステータスという時代が10年続いてきました。でも、もう世の中がそれに飽き始めている。

 自分自身も、もうモノなんてどうでもいい。それよりも、みんなと一緒に素敵な場所に行って、思い出を作ることの方が価値が高いと感じています。これからは、モノより旅などの移動の方が、優先順位が上がっていくと思います。

 いつでも、どこからでも買い物ができる時代になったし、これからそれがさらに進化していきます。でも、便利になればなるほどモノを買う理由はなくなる。世界的にモノを買わない時代が来ると思います。もはや、モノを買おうと思うのはティッシュなどの消耗品が切れた時くらい。そして、数時間後にはティッシュは手元に届く。

 そういう状況下でどういうあり方ならモノが売れるのか。それを考えた時に、テスト段階ですけど、コミュニティがその1つの答えなのかな。

石川涼の新オフィスの室内画像
石川涼の新オフィスの室内画像
石川涼の新オフィスの室内画像
石川涼の新オフィスの室内画像

新オフィスのチェアはジャン?プルーヴェ

??ここで言うコミュニティとは、具体的にはどういうものですか?

 共通の嗜好性を持った仲間かな。大きなグループではなくて、もっと仲間意識のあるコミュニティ。不特定多数の「いいね」を集めるのではなく、そのコミュニティの中でだけ、分かってくれる人にだけ「いいね」って言われることが、満足感に繋がるんじゃないか。

 実際にオリーブでは、「お前も買うなら俺も買う」みたいな、仲間意識が生まれています。バーに来た元々知り合いじゃなかった人たちが、みんなで同じアイテムを買うようになっているので、チャンスはあるなと感じる。お客さんが、自発的に自分たちを「オリーバー」って呼んでくれています。僕はそんな呼び方一回もしたことがないのにですよ。そういう仲間意識が、これからはすごく重要になっていくんじゃないか。今は小さなうねりなんだけど、大きくなっていく予感がします。裏原カルチャーも、最初は学生の趣味みたいな形で始まったものが今や世界に広がりました。それに近いというか。

 だから、大量にモノを売ろうとするのではなく、モノは少ない方がいい。そうは言っても、流通量が少なすぎて誰も知らないようなモノは誰も欲しくない。「みんなが知っているけど買えない」、そういうあり方を探しています。

??そんな絶妙なバランスを作り出すためのカギは?

 ファッションの売り方はすごく難しくて、もちろん売れないよりかは売れた方が絶対にいい。売れてないやつらが、ブランドネームだけで偉そうにしているのは本当に気持ちが悪い。だからといって、売れて、みんながそれを持つようになると急激にダサくなる。バランス感は本当に難しいですよ。いっぱい売りたいんだけど、いっぱい売った瞬間に誰も欲しくなくなるから。

 無駄な情報をあまり出さないというのは大事だと思います。オリーブも、気付いた人がどこにバーがあるのか探し出したくなるような、そういうところまで設計しています。そうやってブランド価値を高めていく。「簡単には売らないよ」っていうこのやり方でも、情報をじゃんじゃん出して、「皆さん来てください、セールもやってます」みたいな売り方より、売る自信がある。実績もすでにあります。 

??最近は油絵を描いていることもSNSに投稿しています。何かきっかけがあったんですか?

 世界がどんどん便利になっていくから、その逆をいかないといけないっていうことと地続きですね。今、生成AIによるフェイク動画の勢いがすごいですよね。何が嘘で何が本当なのかがもう分からない。それはつまり、動画や画像の価値が今後は下がっていくということです。だったら、AIが真似ができない手描きの創作物の方が価値が上がっていくんじゃないか。それで先回りして油絵を描くようになりました。

 別に将来アーティストになろうとか考えているわけじゃありません。僕、6歳の頃に地元の絵画教室に1回だけ行ったんですが、そこで描いた油絵が実家に保管されていたんです。フェイク動画を見て色々考えていた時に、昔の絵を見て「うわっ、もう1回描こう」と思ったのがきっかけ。描き始めたら割と評判が良くて、オファーがいっぱい届く。1枚50万円くらいで売れています。趣味の延長で、喜んでくれる人がいるならやろうかなって。年明けに、個展も開催予定です。

「信念があるなら、
それをやって証明しろよ」

??26年間の経験を元に、これからファッションビジネスを目指す若者にメッセージをお願いします。

 ファッションに限らず、何か好きなことがあって、創作意欲があるというのはめちゃくちゃいいこと。どんどん挑戦してもらいたいです。ファッション業界の慣習に誤魔化されないで、自分たちなりの売り方を考えて挑戦してほしい。別にランウェイショーをやるのが一番偉いとか、そういうことはないんだよ。ランウェイやってるやつなんて大体がほとんど売れてない。それよりも、自分たちのお客さんがどこにいて、どういうふうにしたらその人に喜んでもらえるのかを考えながらやっていくといいと思います。

 自分の中に人とは違う意見があるなら、何か信念があるなら、口で言っているだけじゃなくて、やって証明しろよって思う。ほとんどの人はやらないからこそ、実際にやることがすごく大事です。他人から言われっぱなしで、自分の中で色々考えているだけじゃつまんないでしょ。自分は違うんだと思うなら、それを自分で証明しないと。振り返ってみると、自分はそういう精神で頑張ってきた26年間でしたね。

??HUMAN MADEの株式上場が話題ですが、上場しようとは考えませんでしたか。

 上場は挑戦したいですよ。M&Aは何回か経験したので、次は上場がやりたい。でも、ファッションではやらないと思います。もう全然違う業種で、もっと大きな規模でやりたい。挑戦したいし、びっくりさせたいです。

 最初は本当に何も持っていませんでした。20歳で中途半端に静岡から上京して、学生でもないから友達もいない、お金もない、信用もない。あったのは、ただただ自分の情熱だけ。何をもって成功と言うかはちょっと分からないですけど、この26年間で成功するために必要なものは全て手に入れました。自分に分からないことがあれば周りが詳しい人を連れてきてくれるし、自由に使えるお金もある。信用も実績も作ることができた。これだけ揃っていて次に成功できないなら、それはもう自分の情熱が足りないだけ。そう肝に銘じて挑戦します。悠々自適な引退生活みたいなことは全く考えていません。挑戦はもう絶対したい、ファッションではやらないかもしれないですけど。

石川涼のポートレート画像

2014年のインタビュー時(左)と、あえて同じポーズを取ってもらった。背景に置いてあるのは、油絵を描くためのイーゼル

??改めて、石川さんにとってファッションとは何だったんでしょうか。

 僕らが若かった時はインターネットも普及していなくて、選択肢が限られていました。男の子が好きなものと言えば、服かバイクか車。その中で、何も持っていない自分が唯一できるもの、唯一身近にあったものがファッションだった。だから、今の時代に生まれていたら、全然違ったチョイスをしていたかもしれない、それは分からないですけど。

 自分にとってファッションは何だったんだろうな。まあ、ゲームだよね。どうやって売っていくか、みんながやっていないことの中でいかに自分たちが勝っていくか。それがたまたまファッションだったんだと思います。ゲームというか、ギャンブル。ヴァンキッシュも、立ち上げ当時は「ギャンブラー」っていう名前でした。今そこにあるカルチャーを見ていくことが僕は好きなんだと思う。お客さんが何に反応しているか、今何が足りていないか。それを探すのが好きです。人を感動させて死にたいって思っています。

【追加で一問一答】
26年間を振り返って、教えて涼さん!

Q.ファッション企業の社長はモテますか?

モテるのかな。どうなんだろう。モテるかも(笑)。ただの社長ならいっぱいいるけど、ちゃんと結果を出している社長ならモテますよ。

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Q.一番楽しかったことは?

仲間ができたことかな。

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Q.一番の失敗は?

数え切れないくらいあるけど、嫌なことは忘れちゃう。いいことしか思い出せない。

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Q.買ったものの中で一番高かったのは?

不動産。詳細はイヤらしいので言いません。

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Q.座右の銘は?

「俺はやるけどお前はどうする?」

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Q.ゲン担ぎで大事にしていることは?

神様とかは信じないんだけど、1回会社がピンチの時に、友達が兵庫の西宮神社の十日えびすに連れて行ってくれて、そこから業績がV字回復しました。それから10年以上毎年行ってます。ゲン担ぎというより、その時の友達の気持ちが嬉しかった。今では十日えびすに、全国から友達やファンが集まってきます。

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Q.旅先で好きなのは?

どの国でも建物を見るのが好き。中でも好きなのはパリで、デンマークやノルウェーもすごくいい。

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Q.仕事以外で興味があることは?

ないかも。仕事が人生であり、それが一番面白い。

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Q.好きなアーティストは?

ゲルハルト?リヒター。2024年に久しぶりに個展が開かれたんだけど、そこで購入できた唯一の日本人が僕です。

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FASHIONSNAP ディレクター

五十君花実

Hanami Isogimi

1983年愛知県出身、早稲田大学政治経済学部卒。繊研新聞記者、WWDJAPAN副編集長、編集委員を経て、25年10月から現職。山スキー、登山、ラン、SUPを愛するアウトドア派。ビジネスからクリエイション、ライフスタイルまで、多様な切り口でファッションを取材。音声、動画、コミュニティーなど、活字以外のアウトプットも模索中。

最終更新日:

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