第8話からつづく——
菊池武夫がビギグループからワールドに移籍。1984年4月、衝撃のニュースがファッション界を駆け巡った。「メンズビギ(MEN’S BIGI)」は、人気が再燃し絶好調。社会はまさにバブル景気を迎えようとしていた。DCブランドブームの先頭を走り、メンズファッションの礎を築いた菊池が、自ら作り上げたブランドを離れて新天地へ。神戸に本社を構えるワールドの傘下で、自身の名前を冠したメンズブランド「タケオキクチ(TAKEO KIKUCHI)」が大々的なスタートを切った。——「タケオキクチ」のデザイナー菊池武夫が半生を振り返る、連載「ふくびと」第9話
服だけではない「タケオキクチ」
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僕がワールドに移ることが知れ渡ると、周りからは色々と言われましたね。当時、「ワールドVSビギ」なんて業界本が出されるくらい、社会的にショックが大きかったようです。自分としてはモヤモヤとする気持ちが拭えずにいて、何か新しい場所、新しいものを求めるしかなかった。でも実際には、僕が離れてもビギは成功しているし、ビギのメンバーとは今でも繋がっていて仲が良いんですよ。
声をかけてくれたワールドの寺井さん(寺井秀藏?現 シニア?チェアマン)と、とことん話し合い、新しいブランドの構想が固まっていきました。僕が思い描いていたのは、服だけではなく、それを取り巻くものや環境、つまりは日常生活の全てを詰め込んだイメージです。

ワールド移籍後の菊池武夫(中央)

TKビルディング 1986年オープン
タケオキクチの立ち上げと同時に、構想を形にする店舗の計画も進んでいきました。設計を安藤忠雄さんにお願いして、1986年に完成したのが西麻布の「TKビルディング」です。インテリアデザインは英国のナイジェル?コーツで、売り場にはオリジナルのほかに海外からの買付商品も並べて、靴下や肌着、喫煙具や時計といった小物まで揃う。バーバー、ミュージックカフェ、スヌーカーバーを作り、今で言うセレクトショップやライフスタイルショップの先駆けのような構成かと思います。バブルの時期だったのもあって、とんでもない規模のお金が動いていましたね。



TKビルディング内のミュージックカフェ
誰も知らないアンディ?ウォーホルの一面
タケオキクチの最初のイメージポスターは、写真家のアーヴィング?ペン(Irving Penn)に依頼しました。事前の打ち合わせは、手紙のやり取りを一度だけ。素晴らしいドローイングスケッチが3枚入っていました。手紙には、僕のポートレートを撮ることについても書かれていて、「必ず帽子を持ってくるように」と。そのポートレートは、ニューヨークのコンデナスト?スタジオで撮ってもらったんですが、初対面の彼は本当にかっこよかった。優しくて、素敵な人でしたね。
ニューヨークはブランドの立ち上げ準備としても訪れていて、刺激的な体験をしました。アンディ?ウォーホル(Andy Warhol)やキース?ヘリング(Keith Haring)と会い、夜中に食事をしたのですが、なんだか変わった雰囲気のダイナーだった記憶があります。その翌日、ウォーホルが僕をアトリエに案内してくれました。中に入ったら仰天。古代のギリシャ彫刻が、ずらりとコレクションされていたのです。ポップな作風とは全く違う、感性の一面をのぞき見したような気がしましたね。あの光景を見たのは、日本人だと僕くらいなんじゃないかな。

ショーの構想を思案中
坂本龍一の斬新なアイデア
新ブランドのスタートを広く知ってもらうために、神戸と東京で大々的なショーを開くことになりました。ワールドの拠点の神戸では「神戸ポートアイランドホール(通称:ワールド記念ホール)」の柿落としを兼ねたショーになったので、かなり気合が入っていました。
モデルは、アメリカやヨーロッパを行き来しながら現地でスカウト。いわゆるストリートキャスティングです。そしてショーの音楽は、坂本龍一くんにお願いしました。彼とは遊び仲間で、当時から「教授」と呼んでいたんです。
彼の音楽に対するアイデアは、とにかく面白かった。「ショーの客席に小型スピーカーを仕込んだら面白いんじゃない?」とか。残念ながら実現はできなかったけれど、彼のすごい発想力に感心したのを覚えています。
その1985年春夏コレクションのショーをもって、タケオキクチをデビューさせることができました。僕が45歳の時です。——第10話に続く
TAKEO KIKUCHI アーカイヴ集

1985?86年 タケオキクチ初期のコート。2024年に「THE FLAG SHIP」レーベルから復刻販売となった。

ブランド名よりもアイテム名を大きく記したホワイトタグ
【毎日更新】第10話「最高潮だった気分が急降下、姿を消す」は3月7日に公開します。
文:一井智香子 / 編集:小湊千恵美
企画?制作:FASHIONSNAP
最終更新日:
【連載ふくびと】デザイナー?菊池武夫 全13話
第1話—大病と戦争 「生きる喜び」を知る
第2話—生涯の友と将来の道を見つけた場所
第3話—型紙の服作りを習ったことがない
第4話—伝説的ショップ「カプセル」に出品
第5話—世界一周 モードの都で浴びた洗礼
第6話—リアルクローズを追求 「ビギ」始動
第7話—ブルース?リーも着た「メンズビギ」
第8話—パリで前例のない挑戦 葛藤と焦り
第9話—電撃移籍 「タケオキクチ」の幕開け
第10話—最高潮だった気分が急降下、姿を消す
第11話—浅野忠信を起用 短編映画で起死回生
第12話—73歳、意を決してカムバック
第13話—ファッションを生業に60年「やり切ったと思ったことはない」
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